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追憶の彼方には戻らない 53

 航さんと小木さんはばたばたと急ぎ足で出て行った。
 本当は唯の事など送ってくる時間も惜しかったはず。わざわざ唯を放っておけなくて送ってきてくれたのだろうけれど…。

 「唯。痛い?大丈夫?」
 二人がいなくなった後、光流がそっとソファに唯から離れて座りながら聞いてきた。
 「大丈夫だよ」
 光流には普通に出来る。

 「何があったの?…って聞いちゃいけないんだろうけど」
 光流のお母さんも唯の顔を見ながら心配そうにしていた。
 「お父さんから事件に関わる事だからダメっていわれてたけど…」
 「犯人は捕まったよ。掴まったけど、唯の事は話せない」
 本当は光流だって知ってちゃいけない事だろうに…と唯は思うのだが、そこ等辺は暗黙の了解なのだろう。
 「…そう。でも唯くんがこんな…。って聞いちゃダメなのね。でもどうして航くんから唯くんをお願いされなきゃないのかしらね?」

 「ははっ」
 お母さんの言葉に光流が笑った。
 「まったくだよ」
 それはただ単に航さんが優しいから心配してくれるだけだ。それと唯の親から航さんはお願いされたから…。
 もしくは仕事で、あとは責任か…。唯の事を負担に思ったかもしれない。
 …どうしても色々とマイナスの方にしか考えられなくなりそうだ。

 「唯。あとは大丈夫?他に転んだときにどこか痛めたとかない…?」
 「…ない、…と思う」
 じんじんするのは頬だけだ。 
 「部屋で少し休む?」
 「ううん。大丈夫…」

 部屋に一人でいたらますます凹んでしまいそうで唯は首を横に振った。
 「じゃ俺の部屋行こ」
 お母さんがいたら詳しい話はできないだろうと唯は頷いた。
 「唯くん口の中とかは切れてない?大丈夫?」
 「あ…ちょっと…切れてますけど…大丈夫です」

 叩かれた時に口の中に血の味が広がったのを思い出して顔を顰めた。あの時はそんな事よりも早く航さんに、とばかり気が急いてたけど…。
 舌で口の中をさぐるともう血はでていなかったけど傷ができてて、ぴりっとした感覚があった。すこし腫れてもいるようだけどもう血は止まっていたしたいした事はなさそうだ。

 「着替えてから俺の部屋においで」
 「…うん」
 階段を上って借りている部屋に学校の鞄を置いて着替えてから光流の部屋に行った。
 「光流…ありがとう。あと…ゴメン」
 光流の部屋に入ってクッションに座ると唯は小さく頭を下げながら言った。

 「うん?何が?」
 光流が唯の顔を見てきょとんとしている。
 「え、と…ほら…心配してくれたのに触らないで、とか言って…」
 「………心配するのは当然だし、それに対してお礼なんかいいよ。それに謝るのもいらない。唯はなるべく声を聞きたくない。…でしょ?それもどうして唯がそう思っているかも分かっているつもりだよ?知っている人のは余計に聞きたくないんでしょ?」

 「……」
 こくりと唯は頷いた。
 「あのね、俺は別にそこまで気にしないんだけど。…唯の気持ちも分かるし。確かに知っている人とか近しい人の考えてる事がダダ漏れに分かってしまったら…ましてマイナス方面に思われてたら怖い。…だよね?」
 唯は顔を俯けまた頷いた。 

 「人なんて勝手な生き物だからさ!そりゃ常時いつでも好意ばっかじゃないと思う。人に対してイラッとくる事ないわけないからね。親にだって腹立つ事あるし。でも…唯にしたら人が隠している事を知っちゃうわけだもんね…」

 「…うん…そうなんだ…。両親だって僕は別に嫌ってるんじゃない。感謝もしてる…。だってこんな僕を捨てもしないでいてくれるし…。でも今まではこんなのなんの役にも立たなかったけど、今回少しでも役に立って嬉しかったんだ。あ…でも…航さんには余計な事したって思われちゃった…けど」

 「は?叔父貴がそんな事言ったの?」
 「言ってはないけど…」
 唯はしゅんとしてしまった。
 「はぁ~…あれは唯の事心配しただけだよ?」
 「…違うよ…」
 小さく唯は頭を横に振った。

 「ちがくないって。あんなにベタ甘になってるのに…唯はそんな風に思っちゃうんだ?」
 ベタ甘…?
 「ベタ甘でしょ。はい?誰コレ?って感じよ?」
 「……」
 どこら辺がそうなんだろう…?唯は自分が甘えている自覚はあったけれど…。

 「僕は…その…自分でも航さんに甘えてるな…とは思うけど…」 
 「それは当然でしょ。唯にとったら叔父貴だけが安心して触れられる人だろうしね」
 「…うん」
 当然…なのかな…?

 「それに好きになっちゃったわけでしょ?」
 好きって!……そうだけど…。
 かぁっと顔が熱くなってきて慌てながら光流から視線を外して顔を俯けた。

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坂崎若様宅にてFTコラボの「月よ星よ」の続きupされております^^
私の体調不良の為かなり時間が空いてしまいましたが…(><)
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