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追憶の彼方には戻らない 54

 「ど、どうして…そんなに光流は普通…なの?」
 「うん?男なのにって事?」
 こくりと唯は頷いた。

 「うーん…だってさ、なんかね…唯も目がね、叔父貴見てるとき好きー!って感じで見てるし、叔父貴もやにさがった顔してるし。……締りのない顔ってやつ?」
 「え?…そんな事ないと思うけど…?あ、ぼ、僕は…そう…かも、だけど」
 だって新聞読んでるとこ見てるだけでもかっこいいな、とか思っちゃうし…。

 「んー…まぁ俺が言う事じゃないからこれ以上は言わないけど。唯がした事を余計な事とは思ってないよ」
 光流はそう言ってくれるけど…。
 「…だからずっと唯は顔俯けてたんだ?」
 「だって…航さんに…嫌われたかも…って」
 「あのね嫌いって…どう見たってないでしょ」
 「それに…僕の事はきっと…可哀相と思ってるだけだろうし…あ、あと仕事って言ってたから」

 光流は呆れた表情で唯を見てそして大きな溜息を吐き出した。
 「……んなわけねぇだろ。…まぁいいや、俺には関係ないし。唯は人が怖くてあまり…というかほとんど接してこなかった…だよね?」
 「…うん」
 「だよなぁ…。唯。俺は唯を怖がったり嫌いになるって事ないから安心して」

 …そんなの、先の事は分からないんじゃないか…と唯は思ったけれど小さく頷いた。
 「唯は信じられないかもしれないけどね。ここ何日か一緒にいて唯のやなとこってないからこの先も嫌なとこなんてないと思うよ。ばかだな~とかは思うかもだけど。今もちょっとばかだなーとは思ってるし」
 「え…」

 「あ、ホントに馬鹿だって思ってるわけじゃないよ?どうしてそんなマイナスの事ばっかり思うのかな?って事」
 光流はあっけらかんとそんな事を言った。
 「合わない奴はちょっと話しただけでも分かるし。唯はもううちに何日もいるけどやだとか合わないとか思った事もないからね。この先だってないよ」
 そういうものなのだろうか…?

 唯は自分から積極的に誰かと話したりなんてことはほんの小さい頃を抜かしてはもうなかったので人との付き合い方なんかよく分からない。
 「今何言っても唯は信じられないだろうけど覚えといて。前も言ったけど、俺は何があっても唯の味方になるから」
 「……ありがとう」
 面と向かってそんな事言われるのがちょっと恥ずかしいけれど、嬉しいという思いがじわりと心に広がってくる。

 「今日の、唯に触らないで、と言われたのはちょっと面白くなかった」
 「…え?」
 「分かってるよ?唯は俺が思ってる事が聞こえるからそう言ったんだ、というのは。でもあの場面で何を思っているかといったらきっと唯の心配しかしてない。それを拒否られたのはちょっと悲しい」
 「……ごめん」
 光流はにっと笑って怒ってるわけじゃないと教えてくれる。

 「ああいう時まで拒否らない。いい?普段は俺も自分で何考えてるか知らないから触れないようには気をつけるけど。唯がダダ漏れで人の声聞くのが嫌だろうからね。でもああいう緊急時に拒否はなし。いいよね?」
 「……うん」
 光流も小木さんもあの時に心配そうにしてくれていたのは分かっていた。
 「分かってくれればいいんだよ?だからといって唯が無理することもないしね」

 光流は唯の負担にならないように言葉を選んでいてくれている。それも分かるし、だからこそ唯の心に光流の言葉が響いてくる。
 「…光流って…同じ年じゃないみたい」
 「あはは!体もね。唯ってば可愛いサイズだし!」
 思わず唯はむっとした。

 「光流は大きすぎだと思うけど」
 「中学校でぐんと伸びちゃったからなぁ。目標は叔父貴の身長超える!なんだけど。唯は今何cm?」
 「165」
 「あれ?結構あるじゃん。でもそれ俺は中一ン時だけど」
 むぅっとますます唯が口を尖らせると光流は声を出して笑っている。

 「うちは皆身長でかいからなぁ」
 光流のお母さんも唯と同じ位なのだ。唯の家は母親は唯よりも小さいし、父親は唯よりもちょっと大きい位。
 「僕だってもうちょっと大きくなる……予定」
 「あはは~!かもね。でも唯は可愛いサイズでいいと思うけどなぁ」

 そこまで小さいわけでもないのに光流や航さんと比べたらそう言われるのもわかるけど…面白くはない、と唯はちろりと光流を睨むけど、勿論光流は笑うだけだった。
 
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