「唯…俺の部屋に来るか?」
「………え?」
航さんがゆっくりと立ち上がると今度はベッド端に座っていた唯の隣に腰かけた。その体勢を変える間唯の視線は航さんに突き刺さったままだった。
隣に座った航さんの顔を唯はじっと見る。
「…お母さんが…唯の事を心配しているのは本当だ。唯もそれは分かっているよな?」
「…うん」
「でも…唯が帰ったからといって抱きしめて無事でよかった、と…そういう事を出来ない」
こくりと唯は頷いた。
「分かってる」
して欲しいとも今更思わない。もしそんな事されそうだったら唯は全力で逃げるだろう。だって…本当に心配しているならいいけど、声を聞かれるのを少しでも恐れてとか、そんなのが聞こえたら唯はまた壊れそうになるに決まっている。
「唯…」
航さんが唯の肩に手を触れ、ぐっと抱き寄せて来た。
「…お母さんが電話でも…家に行った時も、そう言っていたけど、だからといって唯の事を愛していないんじゃない」
「…知ってる。…けどダメなんだ…。僕…怖いから。いない方よかったとか、…そんなの聞こえたら…」
「唯…。俺だったら大丈夫…だろう?」
それは勿論航さんの声は聞こえないわけで、その通りなので小さく頷く。
抱き寄せられて唯の頭上から航さんの声が聞こえてくる。
いいけど!さっきキスした…よね?なんで?どうして…?
「唯…俺んとこにおいで?…でも親御さんがダメって言うかな…。唯を守りますって言ったのにこんな顔にさせてしまった…」
「これは!僕が勝手にした事だからっ」
「……助かったんだ。証拠も出なくて…」
航さんの声が苦しそうだ。
「唯が無茶して…顔に痣までこさえる位…でもあれをあの場で持っていたから…犯人だって証拠だからな…」
「それをなくそうとしてたから…僕、焦って…」
「唯は強いし勇気もある。俺に犯人の事を告げた時も…唯は今まで自分がどんな目で見られてきたのか十分に知っているはずなのに自分の心を抑えて告げてきた…。そうだろう?本当に尊敬するよ…」
尊敬じゃなくて…違う言葉が欲しい。だってさっき航さんキスした。
唯は顔を上げるとじっと航さんを見つめた。違うのかな…?
「……航さん…好き」
小さい声で唯が思わずと言っていい位唐突に言葉が口から発せられた。すると航さんはそれに驚きも見せないで唯をぎゅっと抱きしめた。
「うん。知ってる」
「し、し…ってるっ!?」
「ああ。だって唯の目が、ね…」
くすりと航さんに笑われてかぁっと体まで火照ってきた。顔もきっと真っ赤になっているかもしれない。そういえば光流にも好きーって言ってるみたいだって言われたんだった!
「唯…俺も好きだよ。最初から可愛いな、とは思っていたんだけど…。それだけじゃなく内面の強さにも惹かれた。……って年が違いすぎてこんな事俺が言ったら危ない感じだけどな…」
航さんが苦笑している。
「そんな事ない!……あの…ほ、ほ、…ほんと…?」
航さんが好き?唯を?
「ホント」
そう言ってもう一度航さんの顔が近づいてくると軽くキスされる。
「こういうことをしたい位に好きだけど?唯は引かない?」
「ない!」
抱きついてもいいのだろうか?そう思いながら航さんの首に腕を回して抱きつくと航さんは唯の体を黙って受け止め抱きしめてくれる。
「…こういうこと…僕からしても…いい?」
「勿論。いつでも」
航さんの耳元に囁いて聞いてみると航さんがすぐに肯定してくれた。
どうしよう…?嬉しい!
「僕…航さんに…怒られて…航さんにいらないって…思われたかと…」
「それは本当に俺が悪い。心配できつくなってしまったんだ。唯の事は少しも傷つけたくなかったんだ。それなのに体だけじゃなくて心まで俺が傷つけたんだな…」
「そんな事ない!今…すごく嬉しいから…もう大丈夫」
「…よかった」
航さんが唯の頭にもキスしてくれているのが分かってまたどきどきが激しくなってくる。
「…それで?どうする?俺のところに来るか?」
「………あの…本当にいい、の…?」
「いいに決まっている。多分俺が思うに、ご両親とも少し距離をおいた方がいい。唯も遠慮してるし親御さんも唯にどう接していいか分からないんだ。唯が自分から戻りたくなったら勿論それがいいと思う。でもあの状態では唯は家でも一人でいるだろう?」
こくりと唯は頷きぎゅっと航さんの首に回した腕に力を入れた。
「…いくらでも俺は甘やかしてあげられる。…な?そうしろ」
「…うん」
航さんの甘い声が嬉しくて涙がじわりと浮かびそしてほろりと零れた。
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