泣くのも我慢しなくていい、と航さんに優しく囁かれてぼろぼろと堰を切ったように泣いたはず。
朝目が覚めたら唯は一人でベッドにちゃんと寝ていた。
泣いた後の事が全然覚えていなくて、きっと泣いて安心して眠ってしまったんだ。航さんは唯を寝せて部屋を出て行ったのだろう。
いいけど…全部夢…じゃないよね…?
唯は携帯を取り出して時間を確認するともう9時を過ぎていて慌ててベッドから抜け出し着替えをして階下に下りた。
「あの…おはようございます…」
光流のお母さんがいて挨拶する。
「唯くん大丈夫?座って」
ダイニングに小さくなりながら腰かけた。
「あの…航さんは…?光流は…?」
今日は火曜日で光流は学校だろうけど。
「航くんは署に行ったわよ。光流は学校。唯くんに起こされるとすんなり起きるみたいだけど、私だと何度も寝ちゃって遅刻ぎりぎりよ?」
光流のお母さんがくすくすと笑っていた。
「湿布も貼り変えた方がいいわね」
「…あ、…はい。あのじゃ洗面所にいってきます」
体は別になんともないのでそのまま洗面所を借りて湿布を剥がし顔を洗った。鈍痛はまだするし、紫色にもなっていたけれどそんなのは全然平気だ。
どうしよう…?なんか浮かれている。ふわふわと気持ちが上の方を浮遊しているみたいだ。
だって…航さんに好きって言って好きって返されて…それに航さんの部屋に来ないかって言われて…。
本当の事だろうか…?唯が夢見てたんじゃないだろうか…?
洗面所の鏡を覗き込んだ。
「うわ…なんか…酷い顔…」
泣いたせいで瞼が腫れぼったくなっているし頬っぺたは紫色。
「…湿布で隠していた方いいかも…」
痛いとかそういう問題じゃなくて見えない方がいいだろう。唯は別に湿布しなくてもいいけど見ている方が不快かもしれない。
一回洗面所から離れ、買ってもらった湿布を手にもう一度洗面所で自分の顔を見ながら貼った。
「うん…」
やっぱり湿布してた方がましだ、と唯は苦笑してダイニングに戻った。
ダイニングに戻ると光流のお母さんが朝ごはんをテーブルに並べていてくれた。
「…ありがとうございます」
「いいえ~。ゆっくり食べてね」
昨夜も口の中が沁みたのと頬が腫れてたので口を小さくしか開けられずのろのろと食事をしたのだ。
「航くんは今日は夕方には帰ってくるらしいわよ。うちのお父さんもやっと帰ってこられるみたい」
「…よかった」
唯はほっとして声を出した。
「あ、光流がゲームとかするなら勝手に部屋に入っていいって言ってたわよ」
「…はい」
気遣いやらしい光流の伝言に唯はくすっと笑ってしまった。
「なんか…具合悪いわけでもないのにサボったみたい」
「いいのいいの。あ、学校は欠席扱いにならないようにしてくれるらしいから唯くんは安心してゆっくりしてね」
「…え?そうなんですか…?」
「そうみたいよ」
それにもちょっと安心した。学校側にどんな説明をしたのか唯には分からないけれど航さんが唯にいいように全部してくれているのだろう。
それを思って今度は照れくさくなってくる。
だって…好きって…。
一人でもじもじしながらゆっくりと食事をした。
食事を終えて二階に行こうかなと思ったら電話が鳴り、光流のお母さんが出たと思ったら航さんだったらしく子機を手渡された。
「もしもし…?」
『唯、起きた?大丈夫か…?』
「えと…うん…はい…。大丈夫、です」
昨日の夢じゃなかったよね…と確認したい。
『昨日の夜に言ったの、覚えてる?』
「覚えて…る」
航さんから確認されて唯は電話を持ちながらこくこくと何度も頷いた。
『携帯にかけようかとも思ったんだけど、寝てたらと思って』
電話越しの航さんの声にもぼうっとしてしまう。
『義姉さんから聞いたかな?今日は夕方には帰るから。それと明日は俺は休みにしたから唯の家に話しをしに行こうか』
「……うん。あの…本当に…?」
『嘘であんな事いわないよ』
くすりと航さんの笑う声が聞こえた。
『じゃああとは今日はゆっくり休んでて』
「…はい」
『じゃ夕方に』
「…うん」
やっぱり気持ちがふわふわしてしまう。昨日言われた事は唯に都合のいい夢だったのではないかと思ったけれどそうではなかったらしい。
切れた電話を持ちながら唯は一人で顔を真っ赤にさせていた。
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