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追憶の彼方には戻らない 59

 「おかえりー」
 光流の部屋でゲームをしてたら光流がばたばたと帰ってきでドアをバン!と開けた。
 「唯っ!大丈夫っ!?」
 昼休みにも光流からメールが来て大丈夫だと返したんだけどそれだけでは安心できなかったらしい。

 「大丈夫だよ。見た目はまだ痣になってるけど。ゲーム勝手に借りてたよ?」
 「勿論いいけど!」
 光流が唯の前にずさっと座って顔を確認している。
 「うん…。確かにまだ痣は痛々しそうだけど…大丈夫そうだね」
 「うん」
 唯は頷いた。

 「昨夜…寝られなかったって?」
 「…航さんから聞いた?」
 「そ。朝起きたら叔父貴いたからびっくりした」
 「………」
 かぁっと顔が熱くなってきて唯は光流から視線を外して顔を俯けた。

 「………あの、唯…?何?その態度…」
 「え?あ、うん…何…でもないけど…?」
 航さんは光流には何も言ってないらしい。
 「…叔父貴帰って来てから唯と話したって言ってたけど…?」
 「う、…うん」
 ますますかぁっとしてくる。

 「唯?」
 光流が胡散臭そうな目で唯をじっと見た。
 それにちょっと唯は慌ててしまって光流が唯の顔を覗きこんできたのにも視線を泳がせた。
 「……もしかして…纏まった?」
 纏まった?
 唯が首を傾げると光流がはぁ、と溜息を吐いた。

 「唯から言ったの?」
 「え…?あの…何、を?」
 「好きって」
 頭から湯気が出るんじゃないかと思う位にかぁっとしてくる。
 「はぁ…そうなんだ…。ふぅん。俺は今日一日唯の事心配してたけど唯ってばちゃっかりいつの間にか春になってたんだ…」
 否定する事も出来なくて唯は顔を俯けた。

 「あの…ごめんね」
 「ああ?何が?」
 「だって…その…光流の身内だし…」
 「別にそこは関係ないってば」
 はぁ、と光流は溜息を吐き出しながら唯の肩にポンと手をかけてきて唯は思わず身構えてしまう。
 
〝まさか…えっちまでしたんじゃ…〟
 「してないっ!」
 「あ、ごめん。聞こえちゃった?」
 あはは、と笑いながら光流が手を離した。
 「いや別にしちゃってもいいんだけどね。いいけど…叔父貴犯罪だろ」
 はぁともう一度光流が溜息を吐き出した。

 「航さんが…あの…航さんのとこに来ないか、って…」
 「ん?」
 「住むとこ…。僕はほら…親ともあんまり、だから…」
 「ああ…」
 光流が唯の前で胡坐を組んで座った。

 「その方いいかもね。俺は唯の話しか知らないけど…唯が安心して触れるのって叔父貴だけなわけでしょ?」
 「…うん。親がね…どう思ってるかとか…聞くの嫌だし…いらないとか思われたら…だから怖くて…」
 「で、親の方も唯が感じ取ってしまうのを怖がってる」
 唯は頷いた。
 すると光流がまた唯の肩をポンと叩いた。
 〝乱れた性生活にになっちゃうよ?〟

 「光流っ!」
 唯に聞こえてる前程で考えているのか光流ははははと声を立てて笑い手を唯から離した。
 「だってねぇ…叔父貴がストイックに我慢するとか…無理でしょ」
 「………」
 「この間教えたでしょ?男同士でどうするかって。唯されちゃうんだよ?いいの?」
 「………ぃぃ」
 顔を俯けたままできっと真っ赤になっているはずだけど、小さい声で答えれば光流は呆れたようなため息を吐き出した。

 「いいんだ…?そっか…。はぁ…」
 「おい。何話してんだコラ」
 低い声にびくんと唯と光流が飛び上がった。
 いつの間にか航さんが帰って来てて開けっ放しになっていた光流の部屋のドアに凭れて立っていた。
 「航さん!おかえりなさい!」
 ぱっと唯が笑顔を浮べたら光流がうわぁという表情を浮かべて唯を見ていた。

 「な、なに?」
 「い~え~?何でもないですぅ」
 「唯」
 航さんに呼ばれて唯は立ち上がると航さんの傍に近づいた。
 「頬は?」
 「大丈夫。今は大分よくなったよ?見た目はまだちょっとだけど」

 航さんがそっと唯の湿布の張られた頬に触れた。早く治れ、と言わんばかりに優しく撫でてくれて唯はすりと航さんの手に頬をすり寄せる。
 「すみませんけど俺の部屋でイチャコラやめてください~」
 光流にそんな事言われて唯はまた顔が熱くなってくる。
 「別にいいだろう」
 そんな事を航さんが言ったと思ったら唯をぎゅっと抱きしめてきた。

 「こ、こうさんっ」
 「光流はやっかんでるだけだからいいの」
 「そりゃね…唯はそんな事されても叔父貴の手から逃げようとはしないだろうけど」
 「当然だな」
 「はぁ…いけない大人だよね。信じられない…15も下なのに」
 「関係ないな」
 はぁ~と光流が盛大で嫌味な溜息を吐き出した。
 
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