「で、唯を連れてっちゃうんだ?」
「ん?ああ…」
航さんと光流の会話にどうにも唯は居心地が悪くてもぞもぞしてしまう。
「俺も唯の事考えればその方はいいとは思うけど」
航さんは唯を離すと手を引いて光流の部屋に戻り、唯を座らせると航さんもその唯の隣に座った。
「…いいけど…叔父貴自制しろよ」
「どうだかな」
航さんは平然とした様子だけど唯はいたたまれない。
「いやだ~!唯が…あんあん言わせられるなんて…」
どかりと光流の頭に航さんが拳骨を喰らわせた。
「うるせぇ」
「いや、照れる唯が可愛くて。唯ってば何にも知らない位初心だったのにぃ」
「…ん?」
「光流っ」
「いや~男同士でどうするの?なんて聞いて来た位だったのにねぇ」
「そ、それはっ」
犯人に言われたからで航さんに、ではないんだけどっ!
焦ってあわわわとすると光流がにやにやと笑っていた。
「違う!犯人に言われたのが…別に航さんに、じゃなくてっ」
顔を熱くさせて唯は首を横にぶんぶんと振りながら隣に座った航さんの袖を引っ張った。
「………まだ高校生になったばっかだもんな…」
くすりと航さんが笑ったけれど馬鹿にしたような笑い方じゃなくて仕方ないなぁ、といわんばかりの甘さを含んだ笑いだった。
その航さんの目に唯は恥かしくなって顔を俯けた。
どうやったって唯がもう大人だ、なんて自分で訴える事も出来ない。そんな事口にするほうがよほど子供だ。航さんがキスも…昨夜してくれたキスもしてくれなくなったらどうするんだよ、と唯は真っ赤になっているだろう顔で光流を睨んだ。
「わ…唯が怒っちゃった」
唯が怒った所で光流には何も関係がないようで肩を竦めながら軽くそんな事を平然として言う。それにいちいち突っかかるのもやっぱり子供みたいなので無視する事にした。光流は唯が反応した方が面白がってさらに余計な事を口にするんだ。
「唯」
航さんの声に唯は航さんに顔を向けた。
「お母さんに連絡してないみたいだな…明日唯を連れて伺いたいと電話したら随分と心配されていた」
「……電話…してない」
「明日はお母さんは仕事休みらしい。お昼過ぎ位に伺うと…」
「あの…それはいいんだけど…もう事件も…大丈夫、でしょ…?いつまでも光流の家に…」
「何言ってるの!?うちの事は全然唯が心配しなくても大丈夫!うちにいるのを唯が嫌だって思ってるなら言わないけど…。遠慮で言ってるんだったらそれはなし。あ、でもいたとしてももうちょっとだけか…叔父貴はさっさと唯の親にも上手いこと言って連れてっちゃうんだもんな…」
「上手いことじゃない。唯の事を思って、だ」
航さんが訂正を入れる。
「はいはい」
光流が呆れたような声を出した。
「ひとまずこの話はこれで終わりだ。唯は頬が治るまでは光流の家で世話になってていいから。それは兄貴にも了証済みだ。事件解決の功労者だからな。表立って発表もできないからそれ位はさせろ、という事だから唯が気にする事ないよ」
航さんに静かな声でそう言われれば頷くしかない。
唯だって自分の家のほうが息は詰まるのだ。
「それと唯が落ち着いたら署の方に行って欲しいんだ。俺が勿論ついてくけど…あの時はばたばたとしていたからな。ゆっくり唯の力の事を話したり、あとはもしかしたら唯の力についてなにか適性検査みたいなのをさせられるかもしれない」
「……航さんがいてくれる…の?」
「ああ。変な事は絶対させないから大丈夫だ」
航さんがいてくれるのだったらいい、と唯は小さく頷いた。
「あの…犯人は…何か言ってた…?」
気になっていた事を口に出した。
「言ってる。どうして分かったのか、とかな。唯にタバコの箱と言われてすぐに御用となったから…」
…だよね、と唯は小さく頷いた。
「でもアイツが刑務所から出る事はない。最悪、裁判でもよくても無期懲役だろうから…だから唯は安心していいよ」
航さんが唯の不安を取り除こうとしてくれているのが分かり、唯はこくりと頷いた。
「麻薬の方でも罪状もあるしな。余罪も色々ありそうだから取調べは長引くだろう」
「…そう…」
唯にはもう関係のない事だ。あとは航さん達警察の仕事だ。
「唯は気にするな」
航さんが優しく唯の背中をぽんと叩いた。
たくさんのポチいつもありがとうございますm(__)m
にほんブログ村小説(BL) ブログランキングへにほんブログ村 BL小説