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追憶の彼方には戻らない 61

 「唯っ……」
 翌日まだ学校は休んで、航さんに連れられて唯の自宅に行った。
 航さんは一度自分のマンションに戻って車を持ってきて唯は航さんの運転で助手席に乗って、だ。

 初めての航さんの運転で助手席。航さんの車というプライヴェートの空間に唯は落ち着かなかった。
 セダンの大きめの車だった。仕事ばかりであまり乗ることは少ないらしいけど、スムーズな運転で唯の住んでいる家にあっという間に着いてしまう。
 その玄関先で航さんに隠れるように唯も立っていた。

 「大丈夫…?」
 「……平気。もう痛みもない、よ…」
 母親の心配そうな声に唯は航さんの背中から少しだけ顔を出して小さく答える。

 「あ…すみません。どうぞ上がって下さい。武川さんには唯がお世話になって…」
 「いえ、当然の事ですので」
 航さんはそう言いながら唯の背中を押して家の中に入れ、航さんも続いて入ってくる。
 どうしてこう家だと唯は顔を上げられないのだろうか。自分の家のはずなのに。
 親に対して自分がかけた迷惑とか、こんな変な子供で悪いとか、複雑な思いが心の中で交錯してしまう。

 「唯、大丈夫だ」
 航さんが唯のすぐ後ろから唯の耳元に囁いてくれればそれだけで安心してしまいそうだ。 
 「航さん…」
 唯は航さんを見上げてそしてそっと袖に触れた、

 航さんはずっとスーツ姿だ。今日も休みだというのにスーツ姿。唯の母親に挨拶するからだろうけど…。
 リビングに通され、ソファに航さんと並んで座った。不安から心もち航さんにくっ付くように座ってしまう。

 「まずはすみません。唯くんを預かっておいてこのような怪我を…」
 「違う!航さんのせいじゃないもん!僕が勝手にした事だったから!」
 「…いや、俺が守れなかった事に変わりない」
 ぐっと唯は口を噤んだ。航さんの所為じゃないのに!
 「こんなの…全然大丈夫なのに…」
 唯は顔を俯けた。

 「申し訳ございません」
 航さんが母親に向かって頭を下げていた。それを唯は見ていたくなくて航さんの座る方と反対側にぷいと顔を背けてしまう。
 母親が唯を心配してくれたことは分かった。でもこれで航さんが頭を下げるのは嫌だ。
 「…謝っていただかなくとも」
 母親が静かにそう言った。

 「私共に責める権利はないかと…唯をずっと一人にさせてしまっていたし…。唯が納得してないのならばですが、そうじゃないみたいなので」
 母親にちょっと視線を向けたら複雑そうな面持ちで苦笑していた。唯も複雑な気持ちだったけれど母親も同様だったらしい。

 「…今だって…本当は唯に駆け寄って抱きしめて無事でよかったと言ってやりたい…」
 母親が泣きそうに表情を歪ませてそう言った。
 でも母親はそれをしないし、唯もさせない。…してほしくないんだ。
 「…お母さん、それについてお話があるのですが…」
 唯はぱっと航さんに視線を向けると航さんが目で唯に笑みを向ける。

 「唯くんを預からせていただけませんか?」
 「…え?」
 母親が怪訝そうな声を出した。
 「この間も言いましたが俺は唯くんが触れてもどうやら唯くんに俺の考えている事は聞こえないらしく、唯くんもそれは初めての事らしいですが…」
 唯は顔を俯けて航さんの袖をぎゅっと握った。

 「お母さんも唯くんも愛情がないわけじゃないのも分かっているつもりです。でも家でも唯くんが構えているのが見えます。今回の件で唯くんが役に立ったから、とかそういう理由じゃなしに唯くんが構える事無く安心して過ごせるようにしてやりたいと個人的に思いました」
 母親が航さんと唯を見比べているのが分かったけれど唯はその視線には応えず、袖をつかむだけだった手を航さんの腕に絡めた。

 なんて言われるだろう…?だって航さんには本当は何も関係のない事だし…。
 「でも…」
 「俺は結婚もしてませんし、マンションで一人暮らしです。部屋も余っていますので問題はありませんよ」
 物静かな航さんの声と口調は耳に心地よく響いてくる。
 「…唯は…?」

 「……僕は…大学になったら…家を出て行こうと思っていた…。それまではお母さん達にも迷惑かもしれないけど…って…。そうしたら一人でも平気だって…思ってた。ずっと…迷惑かけてばっかりだったし…。でも、航さんといると普通の人なんだ…。航さんは触っても何も聞こえない。それに…航さん優しいし…傍にいると安心出来る」
 母親の顔は見られないまま唯は言葉を紡いだ。
 
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