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追憶の彼方には戻らない 66

 航さんの部屋でべたべたと甘えながらキスしたりしてまったりと過ごしてから光流の家に戻った。
 途中で光流のお母さんからスーパーに寄って買い物を頼まれて航さんと並んで買い物したのも照れくさかったけど、一緒に住んだらこういう感じなのかなとちょっと嬉しくも思った。

 顔に湿布は目立ったけれど見知らぬ人に何を思われようが平気だ。
 そんな事よりもちゃんと好きって言って好きと返される事が初めてでかなり唯は浮かれていた。
 帰ったら光流が今日は総体が始まるし、唯の事も落ち着いたので部活にも出てきたのにそれよりも唯達の帰りが遅かったものだからじとりとした目で睨まれた。

 「…やっちゃった?いや、ヤってないだろうけど」
 「…してません」
 「少しは叔父貴にも理性ってものがあるんだ」
 唯、チョット来てと呼ばれて光流の部屋でそんな事を言われてふぅんと鼻を鳴らされた。

 「これプリント。あとノートも写すでしょ?」
 「うん。…ありがとう」
 「あ、俺の机使っていいよ。あっちの部屋書くとこないし。リビングでもいいけど」
 「…机借ります」
 「どうぞ」

 リビングといったのはきっと航さんがいるからだろうけど、別に航さんがいなくたってノート位書ける、と唯は意地になって光流の机を借りて写す。
 「唯のクラスのヤツに確認したけど進み方一緒らしいしね。違う分は借りてきてやろうか?」
 「そこまではいいよ。総体もあるし授業少ないから学校行ったら借りる」
 光流の机を借りてノートを写し始めた。

 「で?お母さんに言ったの?叔父貴と同棲します、って」
 「…同棲じゃないもん」
 「ええ?同居?居候?同じでしょ」
 ……そうかもだけど、と今度は唯がじとりと光流を睨んだ。

 「あ、ごめん…電話…うちからだ」
 唯の携帯が鳴って表示を見れば自宅からだった。父親が帰ってきて話を聞いたのだろうか?
 「もしもし…?」
 相手はやはり父親だった。母親から話を聞いて、唯にそれで唯はいいのかと確認してきた。

 「うん…。今日航さんのマンションに行って部屋も見せてもらった。家が嫌だというんではないんだけど…」
 分かっている、と寂しそうな声で言われた。
 そう唯も両親も分かっているんだ。唯がどうしても声が聞こえてしまうから触れることも出来ないし、親も聞こえるのを怖がっている。

 航さんに変わってくれと言われて唯は階下に降りて航さんに電話に出てもらった。
 「お電話変わりました。はじめまして武川 航と申します」
 父親だと言ったので航さんが堅い声で電話に出た。
 唯は言いたい事は言ったし、うまく言えないのでそのまま航さんに電話を渡しちゃってまた光流の部屋に戻った。
 少しして航さんが電話を返しに光流の部屋にやってきた。

 「唯電話…って何してんだ?」
 「ノート写させてもらってた」
 光流はテレビの音を消してゲーム中。
 「叔父貴どうだったの?同棲の説得完了?」
 「まぁ。唯がいいなら、みたいな感じだな」

 「ホント?」
 ぱっと唯が椅子から振り返って笑顔を見せると光流がゴチソウサマと舌を出した。
 「ありえねぇ~…親公認同棲」
 普通だったらそうだけど、唯が特殊だからそれが叶ったんだ。
 「…嬉しい」
 唯がもじもじしてると航さんは優しい目になって光流は呆れた目になっていた。

 「俺邪魔しに行こうっと」
 「ええ!?」
 唯が思わず抗議するような声を出してしまったら光流が拗ねた。
 「そりゃあね。ダチなんかより恋人と一緒の方がいいんでしょうけど?傷つく…」
 「や!そうじゃなくて!勿論いいんだけど…光流、からかってくるんだもん」

 「そりゃね。だって唯の反応が面白くて!」
 「僕はおもちゃか…」
 でも光流は反対するのでもなく唯の相談も乗ってくれるし味方になってくれると言ってくれた。
 航さんは唯に携帯を渡しながら頭をさらりと撫でて光流の部屋を出て行った。
 「あっま~~~」

 光流が航さんが階段を下りていった音を聞いてうーわー!と小さく叫びながら光流がごちた。
 「俺なんか子供の頃から叔父貴に手を上げられたら殴られる、しかなかったけど。なにあれ?」
 「…そうなの…?」
 「そう。大学卒業してその後家出たけどそこまで俺は殴られる殴られるよ?」

 「…でも航さん光流の事可愛いがってるでしょ」
 「まぁ、愛情の範囲内ギリだね」
 ギリ!と光流は笑っていた。いいな、と唯も笑みを浮かべた。
 
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