「唯くんいつでも遊びに来てね~」
光流の家から帰る日光流のお母さんが何度もそう言ってくれた。
一番は光流の朝起こす係りがいなくなっちゃうって事で残念がられたのだとは思うけど。
頬の紫はやっとなくなった。結局一週間丸まる休んでしまって明日は土曜日だった。
そしてこの土日で航さんの部屋を片付けて唯が航さんの部屋にお引越しだ。
近いし住所を移すわけでもない。唯の部屋の物を全部運ぶのでもなくて、航さんが新しく家具を入れてくれる予定らしい。
いつの間にかさっさと買って日曜日に唯の机やベッドが運ばれてくるらしく、親には知り合いから譲ってもらったとか適当な事を言ったみたい。
唯の帰ってくる部屋をそのままに、と言った航さんの言葉に親も頷かざるえなかったみたいだった。
まだ初めて会ってから一ヶ月ちょっとなのにもう一緒にってかなりのスピードだ。でも唯にとって航さんはもう誰の代わりにもなれない人なんだからと納得もする。
唯は納得するけど、航さんがそれでいいのかはちょっと不安だ…。
「唯、また明日ね」
「うん」
光流も片付け要員に指名されて明日は航さんのマンションで会うんだ。
いつも光流の家ばかりだったからちょっと変な感じもするけど。
光流と光流のお母さんに手を振りながら航さんの車に乗って光流の家を出た。後部座席には唯の荷物だ。主に着替えと学校の用意。
「後ろの荷物どうする?このまま俺の方に運んどくか?今日明日いるものあるか?」
「ううん。ないから…航さんの家に持って行ってもらってていい?」
「ああ」
航さんが優しく言ってくれる声が好きだ。
唯の家ではすでに父親が帰ってきてるので航さんは父親に挨拶もするらしい。
「…息子さんを下さい、って挨拶したいとこだが」
「やっ…そ、それ、って」
わたわたと唯が慌てると航さんがくっくっと笑っている。
「言わないよ。言って唯を渡してもらえなかったら大変だ」
そんな事を言うけど航さんは余裕があるし絶対嘘だと思う。
「航さんは余裕…僕なんて色々焦ってばっかりなのに…」
「焦る?何を?」
「だって…航さんは大人だし…焦ったからって早く大人になれるわけじゃないけど…」
「焦らなくていいよ。それに俺が余裕なんて…そんなものないな。我慢もどうやら利かなくなりそうだし…早く唯を縛り付けて俺に夢中にさせたい位だ」
航さんが夜の運転で暗い夜道の車の中でそんな事を言う。
そんな事言われただけで唯はぎゅっと心臓が苦しくなってしまう。
「唯」
信号で止まった車だったが、航さんが唯の頭を手で引き寄せ軽くキスしてきた。
「こ、航さんっ」
「バカみたいに余裕なんかないな」
航さんが苦笑するけどそんな航さんもかっこいい。唯の事を航さんが大事に思ってくれているのが分かるから…。
「余裕はないけど俺も焦らないようにはする。じゃないと光流あたりにバカにされそうだ」
はぁ、と航さんが嫌そうに溜息を吐き出した。
「光流って大人だなぁ…っていつも思う」
「そうかぁ?唯をからかって遊んでるんだからガキだろ。唯の方がよほど大人だ。光流の遊びに付き合ってやってるんだからな」
「…そう…?」
「そう。表面上はそう見えるかもしれないが、内面は唯の方が大人だよ。しっかりしてるし人を気遣えるのも。でも俺にはいくらでも甘えていい。唯を甘やかしてやりたいから…。それはもうずっと思っていた事だ。無理する必要は一つもないからな?文句言ったって我が儘言ったって嫌いになることはないから。…って言っても唯は言わないかもだけど」
「…我が儘してるよ?すごく航さんに甘えてるとも思う」
だっていつでも触っていたくてついいつの間にか航さんの傍にいるとどこかに触れている気がする。
「我が儘?甘えてる?…全然足りないな」
くすりと航さんが笑って信号が青になり車を再び走らせた。
足りないなんて…そんな事言われたら嬉しくなってしまう。自分で航さんに甘えすぎてる自覚はあったのにそれでも足りないなんて…航さん許容範囲が広いのが分かって安心した。
「もっと…抱きついたり…してもいい…?」
「当然だろ。ただの同居じゃないからな。恋人同士だろ?」
「う…ん…」
航さんの口から改めてそんな事を言われてかっと身体が火照ってくる。
航さんに呆れられないようにちゃんとしよう、と唯は顔を俯けながら心に決めた。
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