リビングで航さんはいつもより少し緊張した面持ちで唯の両親の前にいたけれど、隣に座っていた唯が無意識で航さんの袖を掴んでいるのが父親にも驚かれたようだった。
ずっと唯は一人だった状態だった。誰にも心を開く事が出来なかった。
それを両親は気にしていたらしいがどうしようも出来なかったと、航さんに告げていた。
よろしくお願いしますと航さんに頭を下げて航さんはそれを享受し、そして帰ろうとした航さんを父親が引き止めて酒を出してきた。
航さんは最初断ったけれどどうしてもと父親にせがまれて断れなくなったらしい。
「唯、狭いけど武川さんのお布団あなたの部屋に運んで。一緒でいいでしょう?」
「……うん」
布団を敷いたら足の踏み場なんてなくなるだろうけど航さんと一緒は嬉しい。
母親に言われて布団を自分の部屋に運ぶ。
部屋が散らかっているわけでもないので狭いながらもすぐに布団を敷き終えた。
あんまり両親と話をする事もなかったのに航さんがいるだけで全然違う。
唯も親もワンクッションあったほうが素直に話せるらしい。これがきっとただ唯が帰ってきただけだったら以前と同じ状態だったはずだ。父親が航さんを引きとめた理由も分かる。唯に言いたい事でも航さん経由で話される感じで、唯もまたそうだった。
「なんでだろ…」
唯の親のはずなのに自由に疎通が出来ないんだ。勿論理由は今までの事があるからだけど。
布団を敷き終え階下に下りると航さんはお風呂に行ったらしい。
「武川さんにタオル出してきてちょうだい。着替えはあったみたいでよかったわ…」
「…うん」
航さんの着替えも車に積んでたからそこはよかったかも。唯の父親も航さんみたいに大きくないし貸す服もなかっただろう。
そういえば誰かお客さんが家に泊まるなんて初めての事かもしれない。
「航さん…」
脱衣所のドアをそっと開けて声をかけた。
「タオル置いとくね」
「ああ、ありがとう。唯…大丈夫かね?なんか俺ちょっとばかりやましいんだけど?」
航さんは湯船に入っているのかお湯の音はしなくて声がよく聞こえ、苦笑しているようだ。
「大丈夫。僕はちょっと嬉しい。なんか普通の家族みたいだ」
「そっか…」
「うん。航さんいないと絶対無理だけど」
そこは自信を持って言える。
「ゆっくりしてね?」
「…ああ」
航さんの声が柔らかくなって唯も心が温かくなる。航さんが傍にいてくれるだけで心強い。
航さんがお風呂を上がってきて今度は唯が入る。
いつもよりも急いでそそくさとお風呂を済ませた。上がったら航さんがいなくなってるなんてないよね、とどうにも不安だったけど、そんな事はなくちゃんと航さんはいて、それにほっとした。
お休みなさいと挨拶して二階に上がる。
そんな挨拶なんてほとんどすることなくなっていたのに…。
くすくすと唯が笑うと唯の後ろをついてきた航さんがどうした?と声をかけてきた。
「ん…挨拶も久しぶりな感じで凄く変」
「…光流の家ではちゃんとしてたのに?」
「うん…。なんかね、最初は飛び越えられるような壁だったのが、段々分厚く高くなっていったような感じ…かな。それが今日は一気に跨ぐだけでいいようになったかも」
それでも壁がなくなったとは思えないのが悲しいところだ。
「あ、部屋…狭いからね!」
「別にいいよ。まさか唯の部屋に泊まれるとは思ってもみなかったな」
航さんが楽しそうだ。
「親御さんには後ろめたいけど…」
「そんな事ない。正直航さんいてくれて本当によかったって思ってる。僕だけだったら部屋に閉じこもって終了だよ?」
「…少しずつな…?」
階段を上りきると航さんが唯の頭を撫でてくれた。
「へぇ、唯の部屋。…狭いな」
「だから言ったでしょ!」
「ダメとは言ってない」
「…狭い方がよかったんだ。一人だったから」
「………」
航さんが布団にあぐらをかいて座るとぽんぽんと自分の膝を叩いた。唯に来いと言ってるらしい。
そっと航さんの膝にすぽんと入るように航さんに寄りかかって背中を預けた。
航さんの手が唯の腹にまわって抱きしめてくれる。
「唯…」
航さんが唯の名を呼びながら耳にキスしてくると唯はぞくっと背中がざわついてしまう。
航さんの体温が気持ちいい。もう暑い位なのにくっついてるのが気持ちいいんだ。
「航さん、…暑い?」
「暑い」
頷く航さんにくすっと笑ったけど航さんは唯を抱きしめたままだし、唯も離れる気はなかった。
たくさんのポチいつもありがとうございますm(__)m
にほんブログ村小説(BL) ブログランキングへにほんブログ村 BL小説