土曜日は片付けを終わらせ、唯が使う部屋が綺麗に何もなくなった。
ほとんどはゴミ行きになってしまってよかったのだろうか?と思ったけど、航さん曰く捨てるのが面倒で押し込んでいただけだ、という事だった。
日曜日は唯は自宅で待機で、航さんが迎えに来てくれることになっていて、そわそわと落ち着かなく自分の部屋の窓からずっと外を眺めていた。
出る前に電話かメールをすると言われていたにもかかわらず、だ。
「あっ!」
午後三時を過ぎて電話が鳴り、唯は慌てて電話に出た。
「もしもしっ」
『今出る所だ』
「うん。待ってる。あの…気をつけてね」
『ああ。じゃあとで』
航さんの声が近い。そしてこれからもっと近くにいられるんだ。
残っていた荷物を持って二階から下に下りるとリビングには両親が揃っていた。
「あまりご迷惑にならないようにね」
「うん。あのね…航さん仕事忙しいし…自炊するのに…航さんは料理とか出来るって言ってたけど…僕も出来るようになりたいから…そしたら航さん少しは楽かなって。だから…」
上手く言葉が紡げない。
「分からない事があったら電話いつでもいいわよ」
「…うん」
母親がちゃんと唯の言いたい事が分かったみたいでほっとした。
自分からこんな風に話をするのもない事で両親もそう思っているのか二人とも唯を見て小さく嘆息を零した。
「唯…ごめんね。…でもいつでも帰って来ていいんだからね」
「武川くんには感謝しているけど…」
母親と父親が交互に言葉を唯に向けてきた。それでも決して唯に触れる事はしない。親が触りたくないというよりも唯が触れて欲しくない、と思って壁を作っていたのかもしれない。
「今まで…僕こそ…ごめん…」
唯が小さく言えば両親が首を横に振った。
「あの…嫌になったんじゃない…よ」
「分かっているよ。でも武川くんと一緒にいる方が唯にとってはいいのも…悔しい事だが分かる」
父親が疲れた様子でそう言った。
「たまには顔を見せにおいで。武川くんと一緒でもいいから」
「……航さんと一緒なら…」
自分一人ではちょっと難しい事かもしれないけど、航さんが一緒ならいいかもしれないと小さく頷いた。
今までになく話しをしている。少し緊張気味なのが、親相手に緊張って、と少し唯も自嘲を浮かべてしまう。
「航さんは…優しいし…僕の事考えてくれるし…」
「そうね」
母親が同意して頷いた。
「電話…用事なくとも元気だ、とか…それだけでもいいからね?」
「……進路の事とか、もあるし…そういう時も…来るか、電話…する」
両親が複雑そうな笑顔を見せて頷いた。
たどたどしい会話をしているうちに時間が経ったらしい。インターホンの音がして唯はばたばたと玄関に向かった。
「航さんっ」
「こんにちは」
航さんは抱きついた唯に驚きながら目を瞠り、でもくすりと笑って、唯の後ろから玄関に出てきた両親に挨拶した。
「唯を…よろしくお願いします」
航さんは離れない唯を抱きとめながら目礼した。
「唯?荷物は?」
「……持ってくる」
リビングに置きっぱにしてたので航さんから離れると取りに戻った。
「お時間ある時にでもうちに来てみて下さい」
航さんが親に向かってそんな事を言っている声が聞こえてきた。見られても大丈夫なように航さんはベッドも入れてくれたらしいけど…。
「何から何までお世話になります。どうぞ唯の事を…」
玄関に戻ると航さんが両親に頭を下げていた。
「ご心配でしょうが、お任せ下さい」
「いえ、安心はしてます」
航さんが唯の持っていた荷物を手に取った。
「…いってきます」
小さく両親に挨拶して航さんの腕に捕まった。
両親も見送りに外まで出てきて唯は航さんの車に乗り込んだ。航さんも運転席へ。
「では唯くん…お預かりいたします」
「よろしくお願いします」
ふかぶかと両親が頭を下げる中唯は家を後にした。
「航さん来るまで今までになく…話したんだ」
「そっか」
「うん」
「触る事はなかったけど…でも…よかった、と…思う」
航さんが腕を伸ばして唯の頭をくしゃりと撫でた。
「買い物していこうか。ほとんど食料がないからな」
「うん」
光流のお母さんに頼まれて一緒に買い物した事を思い出す。これから航さんと暮らしていくんだ。
昂揚した気持ちで唯は大きく頷いた。
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