その後は少しまったりとして時間を過ごし、夕ご飯は航さんと一緒にキッチンに立って手伝った。
航さんが料理なんて、と思ったけれど手際がよく、ささっと炒め物を作って、魚はムニエルにしてサラダを副えてとあっという間に作ってしまう。
明日は本屋さんに行って簡単に作れるおかずとかの本を買ってこよう、と密かに唯は心に決めた。不器用ではないつもりだし作り方とかが書いてあれば大丈夫なはず。包丁を使うのだけがちょっと心配だけれど丁寧にゆっくり焦らなければそれも大丈夫だろう。
「いただきます」
ダイニングテーブルもお洒落な黒で二人用の小さい物に向かいあわせに座り挨拶し箸を持って口に炒め物を運んだ。
「美味しい」
「よかった」
航さんがくすりと笑みを浮かべている。
「好き嫌いは?」
「僕は嫌いなものってあんまりないかなぁ…。だからといって好きな物もあんまりないけど。航さんは?」
「俺もないな」
「航さんはどうして料理出来るの?」
「ん?ああ…大学の時にバイトを飲食店でしてたんだ」
「そうなんだ」
航さんの事を少しずつ知っていくのも楽しい事だ。
会話が途切れても航さんの目は優しいまま唯を見てくれるので全然苦痛じゃない。心臓はどきどきしっぱなしだけどそれも嬉しいんだ。航さんがすぐ傍にいてくれる。航さんのプライヴェートの空間に入れてもらえている。
光流の家にいた時は仕事モードだったんだと改めて分かった。どこか神経を研ぎ澄ましていた様子だったのが今は航さんの周りがふわりとした空気を纏っている。
それがちょっと気恥ずかしい気もするけれど心を許してくれているのが分かればやっぱり嬉しいになるのだ。
片付けも一緒にしてテレビをソファに並んで一緒に見て。
家にいた時はご飯を食べたらすぐに自分の部屋に引っ込んだのに航さんとだったらソファに並んで触っても平気だしそれに近くにいたいと思ってしまう。
お腹もいっぱいになって落ち着いた頃ふわ、と欠伸を漏らした。
「風呂入ってきたら?」
「…うん」
どきんと心臓が跳ねる。
自制するとか言ってたけど、そういうコトをしたいと航さんは思うのだろうか…?
一緒のベッドで寝るとも言ってたけど本当だろうか?
唯の家の航さんが泊まった時、航さんの腕の中で目覚めた朝がすごく嬉しかった。これからずっとそうなるのだろうか?
「あ…」
唯の携帯が鳴った。
「メール…光流だ」
「なんだって?」
「もう航さんの所か?って」
そうだよ、って返事するとまたすぐに返ってきてそれを見て唯はかっと顔を赤らめた。
えっちい事ばっかしないように、なんて書かれてた。
……全然してないもん、と唯は返事もしないで携帯を置いた。
キスもしてくれないし…。
「ん?もういいのか?」
「いいの!」
光流はからかうことばっかり言ってくる。それについ唯も反応してしまうからだとは思うけど。
「じゃお風呂行っといで。使い方とかは大丈夫だろ」
「…多分」
唯は頷いて自分の部屋に行くと着替えを持って風呂場に向かった。
洗い物を終えてからお風呂はセットしてたのでもう出来上がっている。
脱衣所で衣類を脱いで風呂場に入った。
「わ。広い」
湯船も大きかった。航さんと一緒に入る事も出来る位…なんて思ってしまって自分で慌てた。
なんか光流じゃないけど、唯だってついそっち方面を考えてしまう。
でも、と風呂場の鏡に映った自分の貧相な体を見てガックリしてしまった。
それでなくとも女の子じゃないのに…こんなガリな体に航さんが欲情するなんて思えない。
したい…なんて本当に思うのだろうか…?思わないからキスもしないのかな…?
光流の家でも告白してからはキスしてくれたし、唯の家でも何度もキスしてくれたのに、誰にも邪魔されない航さんのマンションに来たのにキスがまだない。
したくなくなったのだろうか…?
自分の体を見てしまえばそれも納得できるけど、だったら一緒にいられないんじゃ…?
それとも航さんはただ単に保護者だけになるつもり…?でもさっきは恋人って言ってくれたけど…。
くるくると余計な事を考えてしまいそうで唯は頭を横に振った。
ベッドに行ったらキスしてくれるかも、と希望的観測をする事にした。
たくさんのポチいつもありがとうございますm(__)m
にほんブログ村小説(BL) ブログランキングへにほんブログ村 BL小説