でも何も食べていなかったのが悪かったのか、ますます胃が痛くなってきて胃液がせり上がってきそうになった。
「宇多くん、大丈夫か?」
額に脂汗までにじんできそうだった。
「…すみません、ちょっと」
瑞希は立ち上がってトイレに駆け込んだ。
やっぱりすきっ腹に飲んだ酒が悪かったのか。
そもそも元々酒など飲まないし。
気持ち悪くてもどしてしまうと、さらに眩暈までしてきた。
どうしよう…。
瑞希は携帯で宗にかけた。
『どうした?』
宗はワンコールですぐに出てくれる。
「ごめん、今、吐いちゃった…」
『すぐ行く』
ぷつっと電話が切れた。
宗が来てくれる。
瑞希はもう動けそうになかった。
「宇多くん」
「宇多?」
清水と斉藤の声。
「大丈夫か!?」
いい。今宗が来てくれるから。
「瑞希っ」
宗の声だ。
宗が清水と斉藤を押しのけて瑞希の元に来た。
「立てるか?」
「ん」
宗が瑞希の脇の下を押さえて立たせてくれる。
「ごめん」
「いい、気にするな。すみません、瑞希連れ帰りますから」
宗は瑞希を片手で身体を抑えてくれ、清水に向かって慇懃に言った。
「君……?」
「……店の裏口から出ますので。じゃ」
宗は斉藤には見向きもしなかった。
「抱き上げてやりたいけど…まずいだろ?」
「まずい」
瑞希が軽口に応じたのに宗はほっとしたらしい。くっと笑った。
「…病院いくぞ」
「ええ?こんな時間じゃやってないよ」
「融通きかせてくれるとこあるから大丈夫だ」
車に戻って瑞希を助手席に乗せてシートを倒す。
「横になってろ」
そして宗は携帯で電話をかけた。
「もしもし、二階堂だ。急病人だ。今から行くから診てくれ。胃らしいが、今もどした…。ああ、俺じゃない。じゃ、よろしく」
宗がエンジンをかけた。
「今はどうだ?」
「ん…胃は痛いけど…吐いたら楽になった」
「ちょっと我慢しろな」
宗が瑞希の頬を撫でた。
「ん……ありがとう」
「いや」
宗は車を丁寧に発進させた。
初心者でもあるけど瑞希の身体の事を考えてなのかすごく運転が丁寧だ。
それに思わず笑ってしまう。
「なんだよ」
「ううん?なんでも」
宗の傍にいられれば安心だった。
宗に連れられて個人の病院に入った。電気がついていて宗が連絡を入れたので待っていてくれたらしい。
「すみません…」
瑞希は医者に向かって謝った。年が大分上の人の良さそうなお爺ちゃん先生だった。
「気にするな。どれ、症状は?」
宗は診察室の外で待っている。
「ずっとチクチク痛かったんですけど…今日はお昼も食べられないくらい痛くなって、すきっ腹にお酒飲んじゃって、少しだけなんですけど…吐き気がしてもどしました」
「神経性、だろうな…一応検査してみるが」
「いえ、多分…新入社員で入ったばっかりだったので」
「ははぁ、なるほどな。胃薬出そう。まぁ、でも検査もしておこうか。何かあれば連絡するから」
「はい。すみません」
「消化のいいもの食べて、心を落ち着かせるのが一番の薬だな」
「…はい」
自分でも自覚はあるので瑞希は頷いた。
血液を抜かれて診察終了。
「瑞希!大丈夫か?」
「うん。薬もらった」
「爺さん、悪かったな」
「まったくだ。まぁ、何かあればすぐ来なさい」
「ありがとうございます」
瑞希はお爺ちゃん先生に頭を下げた。
はぁ、と宗はマンションにつき部屋に入ると瑞希を抱きしめて溜息を深く吐き出した。
「まったく気が気じゃないな。吐いたって聞いた時はびっくりした」
「…ごめん」
瑞希のいかいかしていた胃が静まっていく。
「……今は宗いるから痛くない…」
「ほんとかぁ?」
「ん」
宗がよしよしと瑞希の頭を撫でた。
「お前なんか食べたのか?」
瑞希は首を振った。
「だめだろ…インスタントのスープあったろそれ入れてやるから。瑞希は着替え」
「うん」
以外に宗は甲斐甲斐しい。
それに照れてしまう。
「着替えも手伝うか?」
「…大丈夫です」
ふざけるのは忘れないらしい。
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