朝携帯のアラームに唯が目を覚ますと航さんも一緒に目が覚めたらしい。
「…何時だ?」
「6時15分」
すっきりした目覚めで、目を開けすとすぐ目の前に航さんの顔があってずっと航さんと一緒のベッドでこうやって寝てたんだ、と唯は朝からどきどきだ。
「おはよう」
「おはようござ…!」
ちょんと軽く航さんがキスしてして言葉が途中で止まってしまったけど、航さんは気にせずにそのまま起き出した。
唯もすぐにベッドを降りた。
「顔洗っておいで」
航さんはパジャマ姿のままでキッチンに入ると昨日買ってきたパン出したり、冷蔵庫から卵を取り出したりし始め、唯は先にさっさと洗面所で顔を洗いすぐに手伝うためにキッチンに行った。
コーヒーセットして、皿を出し、パンをトースターにセットしている間に航さんは目玉焼きを作ってベーコンも炒めている。
「航さんは何時に出るの?」
「唯と一緒でいいかな。帰りは何も起きなければ遅くなる事もないよ。何かあった時は電話かメール入れる」
「うん」
朝から一緒に朝ごはん用意して向かい合わせで食べるとか、いやその前に朝起きてすぐにキスとか、もうどれもが幸せだと思ってしまう。
「テストはいつから?」
「来週。分からないとこ光流に教えてもらわなきゃ」
「成績表見せろよ?」
「え~…」
「ご両親にも見せにいかないないとな」
航さんが窓から朝日の入る光りの中で柔らかな笑みを浮かべていた。
梅雨に入っているのに土日も晴れだったし、今日も晴れみたいだ。
でもつけてあったテレビの天気予報で今日の夜から天気が崩れると天気予報士が言っているのが聞こえてきた。
今日からはもう航さんは普通に仕事だろうし唯の近くにいてくれるわけじゃない。それでもこうして朝から一緒なのはやっぱり嬉しい。
「朝もね…いつも無言だったんだ…」
唯がパンを齧りながら小さく言うと航さんがそうか、と小さく返事してくれる。
家で親と話なんかほとんどしなかった。でも航さんがいてくれると親とも普通に話が出来る。いや、普通よりはずっとぎこちないけれど、それでもお互いに話をする気になった。
航さんが唯の背中を押してくれたから。航さんがいなかったらきっと無言のまま家を出て、そして人とはなるべく交わらないでずっと世界に自分しかいないような気持ちで過ごしたはず。
それが航さんがいてくれるおかげで人を好きになれる心が分かったし、親ともいくらか普通になった。絶対航さんがいなかったらなかった事だ。
光流とも友達になったし、それだって航さんが光流の叔父さんだからだ。
全部…航さんに会ってから唯は変わったと思う。精神的にも環境も。
それに恋人とか…人を好きになるなんて自分にはありえない事だと思っていたのに航さんには好きが溢れそうになるんだ。
こんな事を思うのさえ恥ずかしい気がして唯は顔を俯けた。
航さんと自分じゃ釣り合ってないとは思うけれど、それでも航さんは応えてくれて唯を甘やかしてやりたいなんて言ってくれる。
唯が今まで愛情に飢えていた事を航さんは分かっているんだ。人の体温にもだ。小さい頃から親にも甘える事も出来なかったから…。今では唯一航さんだけが唯の無条件で甘えられる人。でもそこに全部を預けちゃいけないと自分で分かっている。航さんは親じゃない。
それでも甘えきってしまうんだけど…と少し反省する。昨日もキスもしてくれないと自分で勝手に拗ねた感じになってしまった。思った事を言っていいと航さんには言われたけれど、それじゃまるきり子供じゃないか。
大人になりたい。航さんに似合うような大人に。
それでなくとも性別だって航さんの隣に立てるものじゃないのに。
彼女がいたと光流が言ってたし、航さんは別に唯じゃなくていいのに…。
唯にとったら航さんだけが特別で、性別なんかよりもその特別な事の方が重要だったから全然問題ではない事だったけど、航さんはそうじゃないはず。
でも…好きって航さんも返してくれた。
「洗い物するよ」
食べ終わって唯が後片付けをしている間に航さんが身支度を済ませ、唯も続けて用意してもらった部屋に行って着替えを済ませる。
「あ、洗濯!」
「干しといた」
唯がもたもたと着替えをしている間に航さんが終わらせたらしい。
航さんとの生活にまだ唯は浮かれているようだ。
「じゃ行こうか。俺は車で行くから乗り換えの駅まで送って行く」
「…うん」
そして一緒に航さんの部屋を出た。どうやらもうちょっと一緒にいられるらしく唯はそれだけで上機嫌だ。
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