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追憶の彼方には戻らない 76

 唯が学校に着いた頃光流からメールがきた。どうやら光流は遅刻ぎりぎりの時間帯の電車らしい。
 お昼休みに行く!というメールだった。

 唯はお昼の分は途中でおにぎりを買ってきた。だったら夜にご飯を多く炊いておにぎりを作ったほうがいいかな、と考えた。
 航さんは仕事でどうなるか分からないのでお昼は持って行かないらしい。確かに張り込みとかしてたらお弁当なんて悠長に広げていられないだろう。

 ……学校に来ても考えるのは航さんの事ばかりだ。
 犯人が捕まってしまえばもう唯には関係のない事。爪が決めてになって犯行も認めたらしくほっとした。その他にも覚せい剤の事とか、暴力団の関係とか取調べがまだまだかかるらしいけどそれは唯にはもう関係ないんだ。

 ほぼ一週間ぶりに学校に出てきたらどうやら風邪をこじらせて休んでいた事になっていたらしい。もう大丈夫かとクラスの何人かから問われて唯は頷くだけだった。
 後はもう普通に学校生活に戻るだけ。
 なんとなく使命感みたいなのがなくなってしまったのがちょっと寂しいなんて思うのは唯の驕りだ。
 

 「唯!」
 お昼休みに宣言どおりに光流がやって来た。階が違う光流のクラスだとお昼休み以外はゆっくり話をする事も出来ないからだ。
 教室を出て人気のない所まで移動した。

 「お昼はどうしたの?」
 「朝に駅でおにぎり買ってきた」
 「うちの母親に頼もうか?唯のお弁当喜んで作ってくれると思うけど?」
 「ううん。いい。もう少し慣れたら自分で作るから」
 「……えらいなぁ」
 廊下を歩きながら小さい声で会話する。

 「…で、どうやら大丈夫みたいだね」
 「?」
 大丈夫?何が?と唯は頭を傾げた。
 「えっちはまだって事」
 「ちょっ」
 かっと唯が顔が熱くなった。

 「何言って…」
 「だって~…。誰も邪魔入らないし~二人っきりで~だったらねぇ」
 にやにやと光流が下世話な笑いを浮かべていた。
 「…学校あるし」
 「まぁねぇ。叔父貴も年食ってるから我慢できるだろうし」

 「………」
 唯は黙ってしまう。航さんも学校あるし滅茶苦茶にしちゃいそうなんて言ってたけど…。
 「学校行けない位な事になるの…?」
 「え~?知らない~。俺男の経験ないし。でも女の子とは違うだろうからね。元々受けるとこじゃないし」
 そうだけど…。
 …というかこんな事話してるってのが間違ってると思うけど。

 「帰り一緒帰ろ?」
 「いいけど…」
 「行ってもいい?愛の巣に入れるのやだ?」
 ぷっと笑いながら光流が言って唯はムッとしながらそんな事ないと答える。光流は航さんの甥っ子だしどっちかといったら唯の方が血縁じゃないんだ。

 「いいけど僕途中で本屋さんに行くよ」
 「何買うの?」
 「……料理の本」
 小さく答えれば光流がふき出した。
 「か~わい~!あ~やだやだ。新婚さん家庭みたい!」
 「そんなんじゃない」

 むきになって否定するけど光流にそれが効くはずもない。
 きっとあれこれ弄られるのは目に見える事で唯は諦めた。
 「しっかし叔父貴も思い切った事するよな。唯を親から取ってっちゃうんだもん」
 「……でも親と…普通にね…話できた」
 「よかったね」

 「…うん。航さんいなかったら無理だった」
 光流がくすりと笑う。
 「唯のご両親も叔父貴に感謝?」
 「…だと思う」
 「ホント叔父貴見てるとおかしくて。もう見てるだけでも唯に甘いし。まぁ分かるけど…。いい年して15も下の子に本気って笑える」

 「でも…僕じゃ誰が見たって航さんに釣り合わないよ」
 「年の差はどうしようもないけど…別に本人達さえよければいいんじゃない?俺からしたら叔父貴のほうには問題あると思うけど」
 「…どうして?」
 「だって犯罪者なるよ?唯がよければいいけど」

 「…いいもん」
 「だろうね」
 光流は客観的にものを言う。自分の叔父が唯なんかを恋人にしてるのに…。きちんとちゃんとの恋人にはまだなっていないけれど…。

 光流はからかってはくるけど、否定はしない。いいのかな…とは思うけど唯は自分でだって気持ちを止められない。朝から航さんと一緒だったらやっぱり嬉しいしどきどきしちゃう。意識してなくとも好きだなぁと航さんにぼうっと見惚れちゃうし。
 また航さんの事ばかり考えてたら光流が唯の顔を覗きこんで呆れたような溜息を吐き出した。
  
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