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追憶の彼方には戻らない 81

 「あ、今日光流が来て…」
 「ああ、そうだと思ったよ。勉強?」
 「うん。…それで、あの…大学進学で…光流が一緒のとこ行こうって…。ただ僕はそこまで頭よくないし…でも一応頑張ろうかな、とは…思って…」
 おこがましいだろうか、と声が小さくなっていく。

 「いいと思う。俺的にも光流が一緒だと安心出来るし」
 「航さんも…大学…そこで…あの、僕もそのやっぱり前に光流のお父さんに言われた事で…自分が役立つならって…」
 「…ああ」
 航さんが微かに顔を顰めた。
 「え…?ダメ…?」
 航さんが箸を持ったまま唯の顔をじっと見てそして溜息を吐き出した。

 「ダメ…というんではないが…。唯を危険の中に入れたくないってだけだ。今回の件だって助かったのは事実で、唯の手柄だと知っている一部では唯をスカウトするつもりらしい。勿論秘密裏だから表立ってはないけど…。でも唯は実際怪我までして…」
 「怪我ってほどじゃないよ?病院だって行ってないし」
 「…そうだが…俺が心配なだけだ」
 航さんが複雑そうな表情を浮かべて苦笑した。

 「唯がしたいというのを俺が止める事はできないけど…」
 それでもやっぱり航さんは複雑そうだ。

 「一応ね…あの話の後色々考えたんだ。僕はどうしたって人と触れるのは怖いから人は避けると思う。それで普通に就職とか考えられないし…僕の事を分かった上で役に立てるならその方が僕はいいかな、って。今まで僕は逃げてばかりだったから…。今は航さんがいてくれるし光流もいてくれるから…」
 航さんは小さく頷いた。

 「唯の助けになるならいくらでも協力はするけどな…。馬鹿かと思うかもしれないが本当に心配なだけなんだ」
 「馬鹿だなんて!その…僕は…航さんに心配してもらえるなんて嬉しいし…」
 「心配するのは当たり前だ」
 当然の様に言われちゃうとまた照れくさくなってくる。
 まだなんとなく二人でいるのがぎこちない気もするけれど、嬉しいという気持ちが勝っている。

 そういえば今日亜矢加さんに会った事を言ってなかったとはたと気づいた。でも言いたくない…。自分から航さんがあの人を思い出すような話題を振りたくなくて黙っておこうと決めた。
 言ったら聞こえた事を確認してしまいたくなる。そして航さんはどう思ってるのと問い詰めたくなってしまう。

 「唯?」
 「え…?あ、なんでもない」
 黙ってしまった唯に航さんがどうした?という視線を向けてきた。
 「あの、そういえば掃除機とか…どこ…?」
 「ん?ああ、廊下の物いれに入ってる。適当に家捜ししていいぞ?でもそんなに唯が家事を背負い込むことないからな?勉強する時間がなくなって成績が落ちたら親御さんにも申し訳ないし」

 「まだ初めての試験も終わってないし落ちるもないよ?」
 「でも大学もいいとこ狙うならやっぱり一番は勉強だろう?掃除なんかしなくたって死にはしない」
 航さんの言い方に唯はぷっと笑ってしまった。確かにそうだけど!
 「ハウスキーパーも入れてるから気にしなくていいよ」

 「…そうなの?」
 「じゃなきゃ休みがなかった俺が綺麗に部屋を保てるはずないだろう?日中に来てもらってるから唯が学校でいない間。だから気にしなくていいよ」
 「……うん」

 でも唯が出来るならその方がいいと思うんだけど…。だって親から一応食費とかは入れて貰ってるけど家賃分はいらないって航さんは受け取ってないみたいだし。
 そこ等辺は親と航さんとでやり取りして唯には詳しく教えてもらっていないけど。

 「飯の支度でも時間がとられるだろう?」
 「でもそれは…別にゲームしてた時間とか考えれば別にいいけど…。ずっと勉強ばっかりしてても飽きるし」
 「…飯の用意もほどほどでいいからな?」
 「…というか何も僕できないし…」
 今日のだって本当にほとんど手は加えてないようなものだ。

 味噌汁とかも作りたいけど美味しく作れる自信はなくてやめた。母親に聞いてみようか、とちょっとだけ考える。
 いつでも電話してと言われていたけど…まだなんとなく気軽に電話は出来ない気持ちがあって複雑だ。
 ちゃんとしたいな、と思ってしまう。

 「でも唯は器用だな。料理なんてしたことなかったんだろう?それでこんな風にすぐできるなんて」
 「こ、れは…だって簡単なの…にしたから…」
 たいした事してないのに褒められるのはかなりこそばゆい。そしてもっとちゃんと出来るようになろうと心に決めた。

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