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追憶の彼方には戻らない 82

 後片付けをして航さんがパソコンで調べ物があるからと先に唯がお風呂に入って上がると航さんはパソコンの前にまだいたので唯は航さんのベッドにいいのかなと思いつつ直行した。
 携帯で料理のレシピが何かないかとか、美味しく作れる方法とかチェックしてると、ありえない位いっぱい色々なサイトがあった。

 本買わなくてもよかったかも、と思いつつそれを眺めていた。
 唯でも簡単に出来そうなレシピはお気に入りに入れて、明日はどうしようかななんて考えていたら航さんがお風呂から出てきたらしい。
 全然航さんがお風呂場に行ったのも気づかない位に携帯に入ってたみたいでそんな必死になってる自分がおかしかった。

 「なんだ?寝てなかったのか?」
 「…うん」
 航さんは唯が図々しくベッドに入っていてもどうも思わないらしくそこに突っ込まれなくてほっとした。航さんから唯のベッドは使わせないって言われてるしいいのだろうけど…。

 「レシピ見てたんだ」
 くっと航さんが笑ってベッドの端に腰掛けた。
 「そんなに根つめなくていいぞ?」
 「…だって…僕が出来る事だったらしたいし…。あの…航さんは俺いて邪魔じゃない…?」 

 「邪魔?」
 「うん…。だって航さんは一人暮らしだったでしょ?だから…」

 「ないな。…いや、本当は俺はプライヴェートの空間まで誰かと一緒にいるというのは嫌なんだが。ほら仕事だと始終小木と一緒だろう?一人のほうがほっと出来ると思ってたんだけど…。唯を連れてくると決めてからはそういやそんな事思ってたのは忘れてた。それに今日なんかほんっとに唯が可愛すぎてどうしようかと思った位だ。帰ってきたらお帰りって出迎えられてご飯まで用意って…。明日小木に自慢してやろうと思ってたとこだ」

 自慢って…。
 そんな事言われたらまた恥かしくなってくる。
 「…おいしいの作れてたら自慢でもいいけど…おいしくなかったし…」
 「そんな事はないな。十分おいしかった」
 航さんは優しいからそんな事を言ってくれるんだ。

 でも本当に航さんは嬉しそうなのが唯にも見えてよかったと安心した。
 「がんばろうっと」
 「いいけど、真面目にほどほどでいいからな?一番は勉強。じゃないと任せられないって唯の親御さんにダメ出し喰らうかもしれないから…。唯を帰したくはないから」

 「…そんな事は言わないと思うけど…。今までだって成績の事でも何も言われた事ないし」
 「唯は真面目で努力家だからな…。テストでも焦って一夜漬けとかないだろう?」
 「うん。慌てるの好きじゃない…」
 航さんが手を伸ばしてさらりと唯の髪を撫でた。

 「俺はもう少し調べる事あるから唯はもう寝なさい。ああ、テスト終わってからでいいが一度警視庁の方に一緒に行ってくれるか?唯がよければ、だが…。検査とかされる事になるかもしれない…」
 「いいよ」
 自分が役立つならそれでいい。

 「…じゃ言っておく。俺も唯に付き添うことになるだろうから」
 「ほんと?」
 一人でだったら怖い気もするけど航さんが一緒にいてくれるなら全然平気だ。むしろ唯が学校だと一緒にいられないから嬉しい部類だ。
 「そう。保護者代わりだからな」

 保護者代わり…だよね…。そこにはちょっとだけしゅんとしてしまう。
 誰がどうみたってそのようにしか見えないだろう。仕方ないけど…。
 「唯…」
 航さんが寝ている唯の頬に手を添えると顔を近づけて来た。そして軽く触れるだけのキス。
 「まだ慣れないだろうし疲れただろう?ゆっくり休みなさい」

 「……うん」
 航さんが唇を離したけどアップの顔で唯に囁くように言った。
 どきりと心臓が跳ね上がってばくばくと心臓が暴れている。
 「…おやすみなさい」
 「おやすみ」

 今度は瞼に軽くキスされ、そして航さんが唯から離れていった。
 残念ながら今日は一人で寝なければならないらしい。それでもきっと朝目覚めれば航さんは隣にいてくれるはず。
 航さんが部屋の電気を消すと仄かにベッドサイドのシェードが薄暗い光りを浮かばせた。

 航さんの腕が今はないけれど、その柔らかな光りを目にしてたら段々と瞼が重くなってきた。
 確かに疲れたは疲れたらしい。慣れない料理なんかしたからだとは思うけれど、でも航さんが気を遣ってくれて褒めてくれたのは嬉しい。気を遣ってじゃなくて本当においしい、って思ってもらえるようにがんばるんだ、と思いながら唯はすぐに眠ってしまっていた。
 
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