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追憶の彼方には戻らない 91

 航さんの手が唯の体を撫でるように触れていく。
 でもその触り方は優しく、大事な物を扱うかのように繊細さを伴っていた。
 「あ、…ぅ…」
 胸の尖りを航さんの指先がきゅっと摘んだ。

 そんな所…と思うのに唯の体はじんと熱を孕む。
 「んっ…ん…」
 唯はそんな…と頭をふるふると振った。全部が初めての感覚だ。人にただ触れるのさえ慣れていないのに肌を合わせるなんて…。

 「ハードル…高いよ…」
 「ん?」
 繰り返されるキスの唇を離して航さんが促してきた。
 「だって…人にも…慣れてないのに…」

 ほんの小さい頃…まだ言葉を発しない頃は親にも抱っことかされていたけれど、ある程度話すようになってからは親にさえ触らないようにしていたのに…。
 航さんはくくっと笑った。
 「慣れろ。唯にこんなこと出来るのは俺だけだろう?」
 「…うん…」

 他の誰ともこんな事したいともされたいとも思わない。慣れていないだけで航さんにされるのが嫌だとは思わないし、もっとして欲しいと思ってしまうんだ。
 「…して…?…いっぱい…」
 「……だから煽るな、と言ってるのに…。唯には優しく大事にしたいのに…」
 「滅茶苦茶に…したいって…言って、た…」

 んっ、と鼻から声を漏らしながら唯が訴えると航さんがまたくぐもった笑いを漏らした。
 「それもある。…けど、唯にもいっぱい気持ちよくなってほしいからな…。感じすぎて滅茶苦茶になるようにしてやるよ…」
 航さんの少し掠れた声が耳朶を擽る。それだけでも唯の体は痺れてしまいそうになるのにこの先はどうなってしまうのだろう?

 それでも…それを与えてくれるのは航さんだ。
 航さんの唇が再び首筋を伝って鎖骨を辿り、キスを繰り返していく。
 唯の飾りのような小さな胸の尖りを食まれるとびりりと身体に衝撃が走った。
 「あ、んっ」
 声が恥ずかしい!

 かっとして手で口を押さえると航さんがくすりと笑う。
 「唯…声は抑えちゃダメ」
 「や…だってっ」
 「俺が聞きたいんだ」
 こんな声聞いたって楽しくないだろうと思うけど…。

 「みっともなく…ない?」
 「はぁ?…んなわけあるか」
 そうなの…?
 細い唯の子供のような体の上に航さんのしっかりした身体が乗っている。スーツを着ていた時はそんなに感じなかったけれど、肩の筋肉も隆々としていた。

 かっこいいなぁ…と羨望の眼差しを向けると航さんが余裕だな、とまた意地悪そうな笑みを浮かべた。
 余裕なんて勿論あるはずもなく、全身が心臓になっちゃったんじゃないかと思う位にどきどきは治まらない位なのに。
 「あ、っ」
 航さんの手が唯の下肢に伸びてきて、さっき吐き出したばかりなのにもう力を取り戻していたそこに触れた。

 「感じてまた勃ってたんだ?」
 「だ、だって…」
 言い訳したいけどその通りなので何も言えない。こんなにえっちい気分になっていいのだろうか、と思う位だ。
 「へ、変…?」

 「ばか……んなわけないだろ。可愛すぎでどうしてやろうか…」
 「や、ぁっ」
 胸の尖りを弄っていた手が今度は唯のものに触れてダイレクトに快感が身体に伝わってくる。
 こんな事…。
 もし航さんの声が聞こえていたならば何をどう思っているのか全部聞こえるはずだけど、それが聞きたいかといえば否だ。

 不安になる時もあるけれど、それでいい。
 聞こえたらさらにどう思われるかが怖くて触れる事は難しくなるのだから…。それでももしかしたら航さんだったらそれも超えてしまうのだろうか?

 もし、を考えても仕方ないけれど、航さんの声が聞こえなくてよかった、とは本当に心から思う。そうじゃなかったら気軽に触れる事など出来なかったかもしれないのだ。
 「ぼ、…くばっかり…やだ…」
 さっきからされているのは唯だけだ。だからといって自分からはどうしていいのか分からない。

 「いいんだ…俺は後からゆっくり唯を貰うからな」
 航さんが胸から顔をさらに下げながらあちこちにキスしていく。
 「んんんっ」
 ぞくぞくしながら身体がじんじんと熱を持っていく。見知らぬ初めての熱に怖いと思うけれど、それを航さんが望み、唯だってそれを望んだのだ。もっと深いところで航さんと交わり、そして感じたい。

 唯に温かい体温を感じさせてくれるのは航さんだけなんだ。
 
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