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熱吐息 agitato~激して~8

【 宗視点 】



 吐く位追い詰められていたのか…。
 胃が痛いとは言ってはいたが、やはり無理にでも病院に連れて行くんだった。
 それでも病院に行って帰って来て安心したのか顔色も戻って眠りについた瑞希にほっとした。
 自分の境遇、同級生の出現、仕事にと神経を酷使していたのだろう。
 そして宗にも。
 頑なにご飯の用意をする。 
 ここにいるために自分に与えられた使命のように。
 そうじゃないのに。
 勿論それだけのためというわけではないのは分かっている。
 瑞希の目は宗を追っているし身体も正直で、触れればすぐに息があがって瑞希が反応するのだ。
 瑞希が宗に縋っているのも分かっている。
 それはいい。
 いいのだが、瑞希がどこか不安定なのにも気付いていた。
 この間瑞希が帰ってきた時に下に行った時もすぐに戻ってくるつもりだったから何も考えないで下に行ったが、その間に帰ってきた瑞希の不安の顔と震えた身体に瑞希が心底安心しているわけではないのに気付いた。
 依存されるのはいい。
 しかしあんなに動揺する位信じられていないのには愕然とした。

 今日の電話は嬉しい事だった。
 あの場に会社の奴らだっていたのに頼ってきたのは自分だった。
 それ位自分が瑞希にとって特別だという事だから。
 しかしあの上司は公式のパーティに親父に出席させられた時に何度か目にしていたので宗に気付いたはずだ。
 ただあの年で課長にまでなっている奴だから出来る奴なのだろう。
 あれは瑞希に対して部下の目しかないからいいが、問題は同級生のほうだ。
 
 倒れこんだ瑞希を抱き起こそうとしてたのに沸騰しそうだった。
 しかし瑞希は小学校の時に離れていった奴を信用していないらしくまったく歯牙にもかけていないという所が救いだが。
 あの男が宗の存在にきっと瑞希に問いただしにくるはずだ。
 あの男は突き落としてやらなければならない。
 瑞希は宗のものだと知らしめてやらなければならない。
 それはどうにでも出来るだろうが、問題は瑞希だ。

 身体が、心が、不安定な瑞希は大丈夫だろうか。
 いくら言葉を綴っても瑞希の心の奥底まで届いていない。
 瑞希の境遇がそうさせているんだろうとは思う。
 境遇など些細な事なのだが…。
 どうしたら全部を委ねて安心してくれるのだろうか?
 静かな寝息をたてて眠っている瑞希の茶色かかった髪を撫でた。
 自分がこんなに誰かに夢中になって、自分がこんな普通の生活を送るなんて考えてもみなかった。
 誰かと向かい合って家で食事するなんて小さい頃以来だ。
 それは怜だったけれど。
 きっと兄貴だって桐生と向かい合ってそう思っているはずだ。
 特殊な家だった。
 母親は遊び呆け、父親は帰ってこず、異母兄の存在。
 今ならば少しは父親の気持ちも理解は出来る。
 怜の母親の家の力によって会社を大きくしていったのだ。
 それに対し認められるようにと動いた結果なのだろう。
 ただどこもかしこも行きすぎで一方しか見えていなかったのだと思う。
 今となってはもうどうでもいい事だが。

 土日の休みで瑞希を休ませてやらないと…。
 週末は瑞希の身体を離さないつもりだったが、瑞希の身体を考えれば我慢するしかないな、とちょっと辟易してしまう。
 瑞希は外に出ても気を遣ってばかりいる。
 宗から少し離れて歩くし、支払いもいつも顔を歪めている。
 それを考えると気分転換に外に連れ出してもやっぱり瑞希の心の負担になるだろうから、結局マンションで大人しくしてるのが一番いいのだろう。
 どうやったら瑞希は安心するだろう…?
 桐生と兄には音楽という絆がある。
 宗と瑞希には…?
 瑞希には確信が必要だ。
 気持ちに嘘はないと言っても瑞希は人を信じきっていない。
 いつか裏切られると思っているのだろうか?
 何度もその境遇で友達と呼べた存在が去っていったのが瑞希の心を蝕んでいる。
 それを拭い去る事が出来れば…。
 でもそれは自分にだけでいい。
 あの同級生に向けてはだめだ。
 宗は苦笑した。
 こんなに瑞希の事ばかり考えているこの心を見せてやれればいいのに。
 そうしたら少しは安心するだろうか…?
 
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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