着替えてリビングのソファでだらだらしながら一日を過ごした。
夕方には体のだるさは残っていたけれど大分楽になってきてほっとした。
だらだら過ごすだけでも航さんと一緒だったらそれも楽しい。
家にいた時はゲームかパソコンで時間を潰すしかなかったけど、航さんとの他愛のない会話が嬉しくて。それに常に航さんが唯に触れているか、唯が航さんに触れている。手だったり、キスだったり…。
人と触れる事が出来るのが、それが航さんで、好きな人に触れられるというのが嬉しいんだ。唯の事情も全部分かってくれて、信じてくれて、そして好きを返してくれて一緒にいられるなんて、なんて贅沢なんだろう。
今までずっと一人だと思っていた分を航さんが全部与えてくれるみたいだ。そして航さんも…もしかしたらそんな気持ちを少しは持っていたのだろうか…?
意味は違うだろうけれど航さんも一人だったのかもしれない…。
「…唯が…俺のだけ聞こえないと言って特別なのだと分かったときは嬉しかったんだが…それだから特別な目を向けているんじゃないか、とも思った」
唯の髪を弄りながら小さく航さんが呟いた。
「……僕も思ったよ。だって聞こえないなんてそんなの航さんが初めてだったし…。でも、光流に言われたんだけど、好きな人だからこそ聞こえないじゃないの?って。あ、そっか、って僕も単純に思っちゃったけど…」
「…そうか…」
「うん。……あの…この部屋に…誰も来てない…ってホント…?」
「本当。その…唯は聞きたくないかもしれないが…亜矢加も入れたのはリビングまでだ。それも仕事の途中とかでプライヴェートでは入れてないんだ。あんまり仕事が忙しくて時間もなかったし、時間を作ろうともしなかったからな。会うのはほとんど外でが多かった。朝まで一緒にいたのも数える位。しかも誰かといて眠るなんて出来なかったんだが…唯は別らしい。唯がいる方がよほど眠れている位だ」
「…そうなの…?…僕、抱き枕?」
航さんはいつも唯を抱きしめて寝ていて、朝起きるといつも航さんの腕の中だ。
「かもしれない。唯がきてからよく眠れて…ご飯まで作ってくれるから早く帰ってくるようになったし、体調がかなりいい。小木には馬鹿にされるが」
「…小木さんに?」
「そう。別人になったって言われてる」
くくっと航さんが笑うけど、唯にとっては嬉しい事だ。
「…そうなんだ…。嬉しいな…」
亜矢加さんの事が気になって一人で勝手に嫉妬して悩んでいたけれど、航さんがこうしてちゃんと口にいってくれるのが嬉しい。
「唯…。唯は人とは違う。その所為で一人で抱え込んでしまう事があるかもしれないが…俺にだけはちゃんと言ってくれ。一人で抱え込まなくていいから…。聞く事だけしか出来ないかもしれないが…」
「航さん…」
「唯の気持ちを分かる事は出来ないかもしれない。でも唯にとっては俺だけが普通の存在だろう?甘えてもいいし当たってもいい。唯が何の気兼ねもなく触れる事が出来るのは俺だけ。…そうだよな?」
「うん…そう…」
ぐっと唯の心が苦しくなる。
「唯が人の気持ちをぺらぺらと話すような子じゃないのは分かっている。でもそれを一人で抱え込むこともないんだ。……ずっと唯は亜矢加の事を気にしていた…よな…?」
「…え?…なんで…?」
「何となく…。いや、唯の様子がちょっと変で…光流に何かあったか、と聞いたんだ。ただそこまで唯が深刻に悩んでる風でもなかったし、…唯から話してもらえるのを待っていたんだが…。実際に何か言われたとかなら光流にも分かっただろうけど、心の中の事までは分からないから…。唯はそれを言う事ないとは分かっていたけど…やきもきした。元はきっと俺が悪いんだろうが…。それとも自惚れ過ぎか?とか色々ぐだぐだ思ってた…。こんな事言うのもかっこ悪いが」
「そ、そんな事ない!嬉しい」
「嬉しい?」
「だって…航さんが僕の事気にしてくれてるって事だよね」
唯はかぁっと顔が赤くなった、と自分でも分かる位だったがそれよりも航さんが気にしてくれるのが素直に嬉しかった。家でも学校でもどこでもなるべく自分に興味を向かないように壁を作っていた唯にとっては誰かにこんなに気にかけてもらうのは初めてだった。事件の時は犯人に狙われていたから、と思っていたけど航さんはそうじゃなくとも唯の事をちゃんと気にしてくれるんだ、と唯は航さんの唯の髪を弄ってる手に顔をすり寄せた。
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