日曜日は航さんは仕事に行った。
唯はもう体は平気だ。昨日は動けなくてどうなるのだろうと思っていたけれど案外平気だ、と掃除したり洗濯したりと学校がある時は纏まった時間がなくて出来ない事をまだほんの少しだけだるさが残る体でぱたぱたと動いた。
その後は航さんのパソコンを借りて料理のレシピや、美味しく作れる方法を検索しながら時間を潰していたら電話が鳴った。
表示を見れば母親だった。
心を決めて通話ボタンを押した。
「…もしもし」
航さんとあんな事しちゃってちょっと心苦しい事はあるけど後悔はしていない。航さんが唯を大事にしてくれているのは分かっているつもりだ。
『元気…?不自由はない?』
母親の声も恐る恐るという感じだった。
「元気だよ。今日は航さんは仕事でいないんだけど…。今航さんのパソコン借りてネットで料理のレシピ見てた」
くすりと母親が笑った。
『ちゃんとしてるのね』
「…一応。簡単なのしか出来ないけど。お弁当も作って持っていってるよ?…それで…あの…今までありがとう。自分でするようになって…ありがたかったって…分かった…」
上手く感謝の言葉が言えないけれど、母親は唯の事をちゃんと考えてくれていたのが分かった。人と違う子だったのにちゃんとしてくれていた。コミュニケーションは不足していたかもしれないけれどお弁当に冷凍食品が詰まっていた事はなかったんだ。自分でするようになって初めて気付いた事だった。
『ばかね…』
母親の声が湿った。
『お母さんこそ…ごめんね』
「ううん!…あのね…分かってよかったって思うし…こうならなかったら気づかなかったかもしれない。…そういえば中間テスト終わったんだ。結果出たら見せに行くね。光流と一緒に勉強して結構いい線いってると思う」
『そうなの?楽しみに待ってる』
普通だ、と思う。家にいた頃なんて全然会話なんてなかったのに。
「毎日…料理とか大変だとは思うけどでも楽しいよ?」
『…そう』
母親は唯を放棄した事を気にしているのかもしれない。でもこうならなかったら全然気づけなかった事だと思う。
『…航さんは優しい?大変じゃないかしら…?』
「優しいよ。大変…だとは思うけれど…でも僕のへんてこ簡単料理もありがとうって言ってくれる」
『そう』
くすっと笑った声が聞こえて唯も安心した。
少し母親からの電話に緊張していたらしいと唯は苦笑が出そうになった。そして電話を切ってほっと息を吐き出す。
でもどこか心が温かくなった。ずっと自分が殻の中に閉じこもっていたんだと思う。自分一人で生きていかなきゃと頑なになっていたのかもしれない。誰も自分の事など分かってくれる人なんかいない、と。
…そうじゃなかったのかもしれない、と唯は自然に思えるようになっていた。それも航さんがいてくれるおかげで、航さんがいなかったらきっと気づけなかった。
航さんが帰ってきたらありがとうって言わなきゃ、と唯は今晩のご飯の用意の為に立ち上がった。
「ただいま」
「おかえりなさい!」
玄関の開く音に唯はぱたぱたと短い廊下を走ってそして帰ってきた航さんに抱きついた。
「…どうした?」
「今日…お母さんから電話来た。普通に話したよ?」
「そうか」
「うん。航さんのおかげ。…ありがとう」
航さんが唯の頭を撫でながらそして頭にキスした。
「うーん…お礼言われるとちょっと複雑かな…」
「どうして?」
「どうしてって…親から唯を取り上げてきたっていう後ろめたさが…それにこんな事しちゃうしね」
こんな事の所で航さんが唯に軽くキスする。
「い、いいんだもん」
唯が仄かに顔を赤くさせながら言えば航さんがくすりと笑った。
「仕事は忙しくないの?」
「今の所は大きい事件もないしな。でも暇が続くとどかんと大きいのがきそうで怖い所だが…」
「…そうなの…?」
「そ。ところで体は?もう平気?」
「も、もう…だいじょぶ…」
「…よかった」
急にそんな事を聞かれてしどろもどろになってしまうと航さんが笑いながら唯を離して寝室に着替えに向かい、唯はキッチンに戻った。
ご飯をよそいながらなんか…普通に幸せだ、なんて思ってしまって、そして本当に新婚さんみたいだなんて思って唯は一人でかぁっと真っ赤になってうろたえていた。
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