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追憶の彼方には戻らない 100

 毎日が幸せだな、なんて自分がおめでたいやつだと唯は一人でぷっと笑うと学校帰りの電車で一緒に乗っていた光流が不思議そうに唯を見ていた。
 「何?」
 「…なんでもないよ」
 光流が新しいゲームを買ったというので今日は光流の家に遊びに行く予定。

 「…幸せ、って感じだよね」
 呆れたように光流に言われたけど唯は正直に頷く。
 電車が乗り換えの駅に着いて光流と一緒に構内のざわつく中を移動していく。
 「叔父貴は優しい?」
 「うん。すごく」

 「…だよね。驚きなんだけど。芝居してんのかと初めは思った位にありえなかったし」
 光流が小さく呟いた。
 「すっかり唯の前だと別人だもんな」
 「……僕はわかんないんだど…やっぱりそれホントなの?航さんも自分で言ってたけど」
 「叔父貴が?へぇ…自覚もあったんだ?ま、そりゃそうか。人なんてどうでもいいみたいなとこあったしね」

 「…そうなんだ…」
 「そう。見えないようにしてたんだろうけど、実際自分も他人もどうでもいいみたいなとこあったよね。冷めてるっていうか、何も興味ない、感じないって感じ。だからといって冷たいわけじゃないんだけど…」
 光流は正確に航さんの事を分かっているらしい。さすが身内だ。

 「それがねぇ…唯には激甘だし…。うちの母親も言ってたけど」
 「……そうなんだ」
 「あ、後で叔父貴にメール入れといて。今日はうちでご飯食べていきなよ。母親が唯来るって張り切ってるから」
 「でも…」
 「泊まっていってもいいんだよ?部屋も唯が使ってたとこあるでしょ?」
 「でも…」

 航さんの家に帰りたいな、と思ってしまう。自分の家の時はそうは思わなかったのに今は違う。
 「ちぇ。ダメか。でもご飯だけは食べてくこと。帰ってから用意するのも大変だろ?もううちの母親心配心配って連呼してるよ?それとも叔父貴が飯作っとけって強要してる?」
 「してるわけないでしょ」
 「だよね。でもやにさがった顔で毎日帰るらしいから」

 「え?」
 「親父が言ってた」
 「え?」
 「なんかすっかり別人扱いらしいよ?仕事の鬼みたいな感じだったのにね。何もなければ定時てすぱっと帰っていくらしいじゃん?」
 「………かも」
 なんか恥かしいなと唯が顔を俯けると光流が声を殺して笑っていた。

 「まぁ唯もよかったし叔父貴もよかったね」
 「…そうかな…?」
 「だと思うよ」
 光流にまで許されたような気がして嬉しくなる。
 「ただ叔父貴はちょっと怖いけど。まじでちょっと引くわ」

 「え?どうして?」
 「だってね…30のおっさんが15の高校生と同棲ってね。しかもメロメロ。ありえねぇ…」
 「………」
 「親からひったくってきて。ある意味すげぇよな」
 「…僕の事情もあったから」
 「そうだけど。でも普通はしねぇよ」

 「……」
 「自分に忠実!まぁ、それで唯も幸せそうなんだから俺は別にいっけど」
 「……そう?」
 「そ」
 そ、って言い方が航さんと似てるよなぁとか思ってじっと光流を見上げた。
 「何?」

 「…なんでもない」
 「……唯、叔父貴にメールして?晩飯ウチでって」
 「…うん」
 唯は携帯を取り出してメールを打った。するとすぐに電話かかかってきた。
 「もしもし」
 勿論相手は航さんだ。

 『今光流と一緒か?』
 「うん」
 「何?叔父貴?」
 光流が聞いて来たので唯は頷いた。すると貸して、と光流が電話を取り上げた。
 「もしもし?叔父貴?今日は唯はウチで飯食わせていいよね?」
 「でも!航さんが帰ってくるのに…」

 「ああ?唯を迎えにきながら叔父貴もウチで食えば?そうじゃないと唯は帰ってご飯の用意しなきゃって思ってるらしいよ?…うん。了解」
 はい、と光流が電話を唯に返した。
 「も、もしもし?」
 『今光流が言った通りだ。仕事終わったら迎えに行く。今日は用意しなくていいから光流んちで遊んでなさい』

 「……うん」
 航さんの声が優しい。
 『じゃあとで』
 「うん…。あ、お仕事頑張ってね」
 『……ああ』
 電話を切ると隣で光流がはぁと呆れたため息を漏らしていた。

 「……何?」
 「なんか一段と甘くなってない?」
 「そ、そ、そ…んな事ない…と…」
 「あるね」
 光流に断定的に言われて狼狽してしまう。
 もしかしてしちゃったの分かってしまうのかな…?と変な事を心配してしまった。
 
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