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追憶の彼方には戻らない 104

 要所要所に制服姿の警察官が立っている所を航さんが警察手帳を出して確認しながら通っていく。
 唯の方をちらっと見られることもあったけど、あからさまに変な顔をされる事はなかった。
 不思議なところだな、なんて唯は暢気に思ってしまう。
 それにこんな所に場違いな自分がいることが信じられない。

 「唯、こっち」
 航さんがいてくれるから安心してるけど一人だったら絶対挙動不審になりそうだ。
 奥まった部屋の前で航さんがノックし、そしてドアを開けた。

 「唯くん」
 「あ、こ、…こんにちは」
 いたのは光流のお父さんでそこにも知っている顔にほっとした。
 でもあと三人ほどは知らない顔だ。
 つい航さんの後ろに隠れてしまう。

 「唯、大丈夫だ」
 「う、うん…」
 航さんが優しい声で唯を安心させる様に言ってくれた。
 「唯くんこちらに」
 「は、い…」

 光流のお父さんに呼ばれて会議室のような部屋のパイプ椅子に座った。
 会議用テーブルが二つ向かい合わせにくっつけてあって、唯の座った向かいには光流のお父さんともう一人光流のお父さん位の年の人が制服姿で座っている。その後ろに白衣を着た人ともう一人若い私服の男の人がいた。
 航さんは唯のすぐ後ろに立っていた。
 大人に囲まれて唯は緊張してしまう。

 「この前の事件では大活躍だったのに公には出来なくてすまないね」
 「い、いえ!全然!」
 「頬はもう大丈夫?」
 「はい…」
 話しているのは光流のお父さんなのでそこはちょっと安心した。どうしても見知らぬ人には唯は身構えてしまう。

 「…これなんだけど」
 光流のお父さんがつっと唯の方に何かを差し出してきた。
 「?」
 通帳と印鑑だった。
 「勝手にこちらで作らせて貰った」
 「え、ええ?」

 「開けてみてご覧」
 表には紺野 唯の名前で唯名義の通帳ということだろうか?
 後ろを振り返って航さんの顔を見たら航さんが見てみろと目で合図したので、恐る恐るそれを手に取って開いてみた。
 どうやら本当に唯名義らしいが…。

 「ええと…?なんですか、これ?」
 通帳には高校生の唯にとってはかなり多額な額の数字が並んだ通帳だった。
 「犯人逮捕の報酬」 
 「ええ?」
 どうしようと航さんを振り返るといいんだ貰っとけ、と航さんが小さく唯に囁いた。

 「懸賞金とかあるだろう?そんな感じだと思ってればいい。唯は危害も加えられたんだから」
 「で、で、も…」
 そういうつもりだったわけじゃないのに…。
 「バイト、って言った事を覚えているかね?是非協力して欲しいと思っているのだが…唯くんは嫌かい?航からはやる気になっているとは聞いたが」

 「あ、はい。…あの、僕で役に立つなら…ですけど…」
 ありえない力なのに…なんで光流のお父さんは当然の様にしているのだろう?と不思議で仕方がない。
 「正式な警察所属、にはならないけど…将来はそれも考えてくれると嬉しいと思っている」
 「…そのつもりですけど…」
 「うん」
 光流のお父さんがにっこりと笑みを浮べた。

 「こっちにいるのが特殊課の担当で田中だ」
 「よろしく、唯くん」
 光流のお父さんの隣に座っていた人が人懐こそうな顔で挨拶してきて唯は小さく頭を下げた。
 「後ろにいる白衣を着ているのがメンタルや体調などサポートしてくれる熊谷くん。検査とかで担当のメインになっている。それと医師の資格を持っているから安心して。もう一人の私服の子は唯くんと同じ立場で江村くんだ」

 …同じ立場?…っていう事は何か力を持っているという事?
 唯は興味を惹かれてじっと私服の若い男の人を見た。
 神経質そうできつめの目元。背は唯よりは高いだろうけど、全体的に線が細い。力ってどんな?色々聞きたい事が湧いてくる。じっと唯が江村さんという人を見ていると江村さんも唯をじっと見ていた。

 「血液採取してもよろしいですか?」
 白衣を着た身体の大きな医者?だという熊谷さんと言う人が唯に聞いて来た。熊谷なんて本当に熊みたいな感じの人だった。けれど怖いイメージではなくどこか愛嬌がある。でっかいテディベアみたいな感じだ。
 「あ、…はい」
 「質問もいくつかいい?」

 熊みたいな人がバットを手に唯の隣に椅子を引っ張ってきて座った。
 「…はい」
 田中さんという人が紙と筆記用具を取り出し、江村さんという人はただじっと唯を観察するように見ていた。
 落ち着かないなと思いながらも唯は促されるまま採決の為に腕を差し出した。
 予め航さんから言われていたので動揺はない。ただ落ち着かないだけだ。

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