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追憶の彼方には戻らない 105

 「唯くんは人と接触すとその人の考えている事が聞こえる。そう聞いてたけど間違いはない?…ちょっとチクっとするよ」
 「はい」
 腕を消毒され注射針が刺された。
 目は血液を見ないようにして航さんの顔を見たり光流のお父さんを見たりと視線を動かす。

 「手で触れた、だけじゃなくて身体の一部が触れただけでも聞こえる?」
 「はい」
 〝高校生!わっかいなぁ~〟
 「俺も今唯くんに触れてるけど…聞こえる?」

 「…はい……若いなぁ…って」
 あははと熊みたいな人が笑った。
 最初から唯の事を聞いているからなのか変な顔もされないし、気持ち悪がられもしないのに唯はほっとした。

 「それっていつから?」
 「ずっと…小さい頃からです」
 「波とかはある?聞こえづらいとか」
 「…ないです」
 「でも後ろの武川刑事の声は聞こえないって聞いたけど?」

 「はい。聞こえません。…初めてです」
 「ふぅん…」
 「あの…人に触るの…嫌がっていたから…他にもそういう人がいるかどうか…は分からないですけど…」
 採血を終わったのか針を抜いて消毒の脱脂綿をテープで止められた。

 「もうすぐ夏休みでしょ?夏休みには脳波とか色々検査したいんだけどいいかな?」
 「…はい」
 唯は小さく頷いた。
 「ま、科学的に証明は出来ないだろうけどね。江村くんこっちきて」

 熊谷さんが椅子を立ってもう一人の能力者だという江村さんを呼んだ。
 江村さんという人はあまり表情が変わらないらしく何を思っているのか表情からは読めない。
 熊谷さんに指示されて江村さんという人が唯の隣に座った。
 「江村くんは透視能力者なんだ」

 透視…。
 じっと唯は江村さんという人の目を見た。どういう事をするのだろう?と唯は興味を引かれた。
 こんな変な力を持っているのは自分だけかと思っていたが、種類は違っても他にもいたらしい。それになんとなく心が安堵していた。
 そっと江村さんという人が唯の手に触れた。

 〝…聞こえる?〟

 江村さんの声だ。
 唯はこくりと頷いた。
 もしかしたら力を持っていれば聞こえないんじゃないかと思ったのにやっぱり声は聞こえてきた。
 航さんだけがやっぱりどうしたって特別らしい。

 〝名前は江村 克己(えむら かつみ)。大学1年〟

 ぱっと江村さんが手を離した。
 「唯くん。江村くんはなんて?」
 「ええと…名前が…江村 克己さんで、大学1年…」
 江村さんが立っていた熊谷さんを見て頷いていた。

 「…考えた事で会話も出来るって事か。表層意識のみの声が聞こえるのかな…?もっと根深い所の声は聞こえない?」
 「…分かりません。なるべく聞きたくないから…」
 人が思っている事を詮索するような真似はしたくなかったので意識した事はなかった。
 今までは聞こえるのか怖かったし、聞きたくもなかったのだ。人に知られるのも嫌だったし知られたくもなかった。
 唯が俯くと航さんがとんと背中を元気付けるようにか優しく叩いてくれた。

 「ESPカードって知ってる?」
 熊谷さんが聞いてきて唯は頷く。
 「これなんだけど」
 白衣のポケットからカードを取り出した。
 丸、十字、波、四角、星のカードだ。

 「裏返して表に何書いてあるか見える?」
 唯は手に取って見たけど見える事はないので首を横に振った。
 「じゃあ最初は適当で勘でいいから言ってみてもらえるかな?手持ちで25枚あるんだけど、一枚を俺が引いて唯くんの前のテーブルに置くからそれを当てて?10枚分引く」

 唯が頷き、熊谷さんが唯の目の前にカードを置いていき、唯は見えないので適当に言っていく。
 適当だったのに結構当たって10枚中8枚の模様を当てた。
 「驚いた」
 熊谷さんが言って江村さんも微かに目を見開いて唯を見ていた。

 「今度はカードを先に江村くんが見て、唯くんに触って教えてあげて」
 勿論触れられれば声が聞こえるので聞こえた通りに言っていけば10枚全部当たる。
 「…聞こえてたら当然だな。もう一回いい?」
 今度も江村さんが心の中で星、と教えてくれればその通りに言っていく。…と最後の10枚目だけが江村さんは波と言ったのにカードは四角だった。

 「…あれ?波って…???」
 「そう。俺は波って言った」
 わざと間違った答えを言ったらしい。本当に聞こえているかの確認だったのだろう。
 「すごいね!」
 熊谷さんが興奮したように声を弾ませた。
 
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