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追憶の彼方には戻らない 106

 「10枚当てられる確率は?」
 光流のお父さんが不思議そうにカードを手に持ちながら聞いて来た。
 「0.00001%ってとこですかね。最初に唯くんが一人で8枚当てたのだって脅威なんですけど。普通の域ではないです」

 …そうなの?
 「でも見えてなかったから適当なのに…」
 「適当でも当たる確率っていうのがね。普通は0枚から3枚位が適当で当たる。80パーセント以上の人が3枚までの範囲だよ。8枚っていったら適当じゃすまされないよね」
 「……そう…なんだ…」

 へぇと唯は他人事のように感じてしまう。
 「潜在的に透視も持っているのかもね」
 全然見えないけど…と唯もカードを持って表を見たりひっくり返してみたりと見てみたけどやっぱり見えるわけではない。
 でも心を覗き見ると思えば同じ類に括られるような気もしてくる。

 「武川刑事もしてもらっていいですか?」
 「俺?」
 航さんが素っ頓狂な声を上げた。
 「唯くんが唯一今の所声が聞こえないってのがね…。もしかして何かあるのかも?」

 「…ないと思うけど」
 「やってみろやってみろ」
 光流のお父さんが面白がって揶揄した。
 航さんがしぶしぶやってみると当たったのは10枚中2枚。

 「…これが普通ですね」
 熊谷さんが苦笑している。
 「何度かやってみないと分かりませんけれど、こういうのも夏休み中に色々データに取りたいんだけど…唯くんいい?」
 「…はい」
 カード当てはちょっと面白いかも、と唯は頷く。

 唯の力の事を知っても普通にしてくれる人がこんなにいるんだ、と唯は一人一人の顔を確認した。どこにも変な目で唯を見ている人はいなかった。
 そして唯は江村さんを見た。
 「あの…江村さんはカードは…?」
 「100%」

 江村さんがぶっきらぼうに答えた。
 怒っているわけではなさそうだけどどうにも江村さんは表情が乏しい。
 「江村くんとも仲良くして?二人とも夏休みに入ったら顔合わせるようになると思うから。江村くんは怒ってるわけじゃないからね?あんまり話もしないし表情も変わらないから唯くんは気にしないで?」
 「……はい」

 熊谷さんは終始にこやかだ。 
 熊谷さんが好意的でにこやかだからなのか、航さんよりも威圧感がありそうながっしり体型なのにさほど唯は気にならなかった。初めて会う人にここまで普通に話せるのも珍しいのに。
 いや、多分航さんが唯の後ろにいてくれるからだ。もしここに唯一人だけだったら不安で押しつぶされそうになっていたと思う。

 ちらっと唯は後ろに立っている航さんに視線を向けた。
 「なんだ?」
 「…ううん」
 航さんがすぐに屈むように顔を唯の頭に近づけて聞いてきたけど唯は別に用事があるわけでもないので首を横に振った。

 「さて採取した血液を検査に持っていかないと。俺はこれで失礼しますよ。じゃあ唯くん夏休みにゆっくりね」
 「…はい」
 優しそうな人でよかった、と唯はほっとした。もしいかにも医者と言わんばかりの冷たいような感じの人だったら身構えたかもしれない。
 熊谷さんは唯の血液を持ってでは、と出て行ってしまった。

 「唯くんも江村くんも帰っていいよ。江村くんは尾崎に送ってもらうように」
 こくりと江村さんが頷いた。
 「でも別に一人でもいいですけど」
 「一応な。普段は気にしなくともいいけど、ここに来る時などは注意するのこしたことはないからね」
 光流のお父さんが諭すように言えば江村さんが小さく顎を引いた。

 特殊課、だからなのだろうか?
 航さんが唯についてくれているように尾崎という人が江村さんについてくれてるのかな、と唯は考えた。
 まだ江村さんも大学生と言っていたので警察に所属しているわけではなさそうだけど他にもいるのだろうか?
 江村さんはまだ唯の隣に座っていて唯の事をじっと見ていた。

 「じゃあ江村くん、尾崎をここまでこさせるから。航はちょっと。唯くん、江村くんと待ってて?」
 「あ、はい…」
 航さんも行っちゃうの?と思ったけどとりあえずここに置いてきぼりされるわけではないだろうからと頷いた。
 「ちょっと待ってて」
 航さんに言われて唯が頷くと三人が部屋を出て行った。

 江村さんと二人きり…。
 無表情な江村さんにどうしたらいいんだろうと唯は構えてしまった。
 整った顔の綺麗な人だな、と思ってしまう。まるで人形のようだ。
 話しかけてもいいのかな?と唯はやっぱり自分以外の力を持つ人の存在に無視されちゃうかも、と思いながらも口を開こうとした。
 
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