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追憶の彼方には戻らない 109

 ところが全然本の内容が入ってこない。
 何度も何度も同じ所を読み直してそれでも理解出来なくて諦めて本をテーブルに置いた。
 困ったな…とリビングのソファで体育座りになって膝を抱えた。
 航さんは唯に背中を向けて何かを調べているらしい。

 つまんないな…と航さんの背中をじっと見た。
 今日はキスもしてないのに…。
 学校が終わってからずっと一緒にいられたのは嬉しいけどでもそれじゃ足りない。
 …なんてそんな事思うのは贅沢だって分かってるんだけど。

 航さんの背中は広いなぁ…。今日はスーツの上を脱いだだけでまだワイシャツだ。ネクタイはもう外して腕まくりしている。腕も筋肉が張って細い棒のような唯の腕とは全然違う。
 いつか唯もああなるんだろうか?と一瞬考えたけど、いや無理だな、と一人で頷いた。

 唯の父親は平均位の身長で筋肉質でもない。母親は唯よりも小さいし、上手くいって身長は平均位か。170センチは越したいんだけど…去年も今年も伸びたのは1センチだけ。…難しいかも、と航さんの背中をじっと見ながら考え事をしていたらくるりと航さんが椅子の向きを変えた。

 「どうした?」
 「え?」
 「なんかじっと見てるから」
 「……航さんは背中にも目があるの?」
 ぷっとこうさんがふき出してパソコンを閉じた。

 「え?あ!ごめんなさい!邪魔してた…?」
 「いや。終わったからいいけど?で?何?」
 「何っていうか…ただぼうっとして考え事してただけなんだけど。航さんの背中広くて、背も高いし、僕はあとどれ位身長伸びるかなぁ、とか…」

 「まだ高校生なりたてだからもっと大きくなるだろう」
 「…でも去年も今年も1センチしか伸びてないんだもん」
 「まだまだだって。大学位でも伸びる奴は伸びるぞ?」
 「…そう?」
 でも光流なんかはもう180あるし、と比べても仕方のない事だ。

 航さんがソファに来て唯の隣に腰掛けたと思ったら唯の身体をひょいと抱き上げて膝に乗せた。
 子供じゃないんだからちょっと恥ずかしいと思いつつも航さんにされるのはなんでも嬉しいものだからそのままにされる。
 「熱い視線でも向けてくれてたのかと思ったのに」
 「ん?……あっ…」
 航さんが唯の顔をじっと見てにやりと笑った。

 「違ったんだ?」
 違うけど…違うって言ったらしてくれないのかな…?
 目の前の航さんの顔にキスしたくてじっと航さんの顔を見てしまう。
 「何?ちゃんと言ってごらん」

 「キス…今日してない…」
 「朝はしただろ?」
 「…帰ってきてから…」
 航さんは意地悪だ。
 唯がキスしたいのが分かってるのにわざとしてくれない。

 「唯がしたいなら唯からすればいいだろう?」
 「…いいの?」
 「当たり前だ」 
 いつも航さんからしてくれるから…唯は黙って待ってるだけでいいんだけど…。

 そっと航さんの頬に手をかけて唯は顔を近づけた。
 ドキドキする。
 キスはいっぱいしてるのにそれでもやっぱりドキドキしてくる。

 「んっ」
 唯は自分から唇を航さんに押し付け、そして舌でぺろりと航さんの唇を舐めた。
 その舌をすぐに航さんが捕えてそして航さんの口腔に引っ張られる。
 「んんっ」
 吸われて絡められればずくりと身体が官能の疼きを訴えた。

 航さんの舌が唯の舌と絡み、そして唯が舌を引っ込めると追いかけてきて今度は唯の口腔を航さんの舌が動き回る。
 「ぅんっ…はぁ…」
 キスの合間に熱い息を漏らすとまた航さんがぐいと頭を押さえて唇を合わせてくる。
 どうしよう…。これだけでもう唯の身体は熱く反応してしまっていた。

 「こ、う…さん」
 もじもじと航さんの膝の上で腰を揺らすと航さんが手を唯の前に伸ばしてきた。
 「…もう感じてたのか?」
 「だ、だって…!」
 かぁっと唯は顔が赤くなるのを感じた。
 先週の事を思い出しただけでも反応してしまいそうになるのにえっちいキスなんかされちゃったら効果覿面だ。

 「さすが若いな…」
 「や、んっ!」
 航さんの手がパジャマのウェストから中に入ってきて唯の反応している所に触れた。
 「…もう先が濡れてるぞ?」

 「だ、だ、…って…」
 「して欲しい?」
 「…ほしい」
 航さんの胸に埋めるようにしながらも唯は小さい声で自分から求めた。
 
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