宗の大学の入学式も終わって、宗は大学、瑞希は会社が普通の生活になっていた。
瑞希の胃はたまに痛み出す事もあったがすぐに治まる程度で仕事にも慣れてきてその痛みの頻度は減ってきた。
仕事は上司に連れられて取引先にも一緒に顔を出すようになり、綺麗な、と称される事の多い容姿は覚えて貰うのにかなり役に立った。
ホストのバイトをしてた時に会話の運び方は覚えた。人なんて大抵誉められればいい気分になるものだ。
それがさらりと自然に言えば信憑性が増して好感度があがる。
あからさまではおべっかになってしまうが、そうとられない様にさりげなくがコツだ。
そして宗の所で覚えたのがまた話題に事欠かなくて、容姿だけでないのが分かればますます印象に残るらしい。
上司の清水について歩いて3日。
瑞希は道路がいまいちよく分かっていないので車を運転するのは清水だ。道も覚えなくては、と瑞希は道路の地図を頭に思い浮かべながら車に乗っていた。
上辺だけの付き合いなら簡単だ。
何しろ瑞希の内側に入っているのは宗だけだ。
「……そんなに気張らなくても…」
清水がぷっと瑞希を見て笑っていた。
必死に道を覚えようとしているのが見えたらしい。
「いえ、上司に運転なんて…」
「いいよ。ま、覚えてたほうがいいからいいけど…。………この間の飲み会の…」
飲み会のあった次の週に瑞希が胃痛で早く帰ったという事は知らされていたみたいで大丈夫?とあちこちから声がかかったが、それだけでほっとしていた。
斉藤は何もいってこず、清水も大丈夫か?だけだったのに安心していたのだが、それからさらに日数が経った今聞くか?と瑞希は身構えた。
「宇多くん迎えに来た彼は?」
「…同居人です」
普通はルームシェアしてると思うはず。
「…ふぅん……彼の名前聞いておいてもいい?もしまた宇多くんが具合悪くなったりしたらね…」
名前言ってもいい、のかな…?
「宗…二階堂、宗です…」
「二階堂、なんだ?」
「はい。なんか…就職も二階堂商事で…。就職決まったあと宗、と知り合ったんだけど…すごくよくしてくれるから……二階堂って名前と縁あるのかな、って勝手に思ってる、んですけど…」
どうにも仕事以外の事は話しづらい。
「…へぇ」
これ以上余計な事を言ってはだめだ、と思ったら清水もそれ以上は聞いてこなくて瑞希はほっとした。
「なんか課長に宗の名前聞かれて言っちゃったけど……よかった…?」
「え?ああ。別に構わない」
なんとなく清水が計るように聞いてきたのが気になっていたのだが宗はソファに寝転がったまま平然としてるのにほっとした。
「お前の同級生は?」
「斉藤?別に何も?ここんとこ俺は課長と外回ってるし斉藤は岩国さんと外回ってるから顔あんまり合わせてないし」
「ふぅん」
宗は斉藤の事が気になるらしい。
気にしてくれてるのだって瑞希にしたら嬉しくて顔が弛んでしまう。
二階堂商事は滅多に残業がなかった。
残業するのは仕事が出来ないからだ、と決め付けられるらしい。
そうすると仕事は回ってこなくなるそうだ。
なので瑞希もいつも定時、夕方6時に仕事を上がってくる。
そして帰って来てご飯の用意。
段々と時間のリズムに慣れてきた。
「宗は?学校はどう?」
「ん~、普通。あんま楽しい、とはいえないけど…。いい、使えそうな奴いないかと思ってみてるけどあんまいねぇなぁ…」
「………それ普通だと思うけど?」
宗が使える、という人は普通じゃないと思う。
「一人経理に入れたい奴いるんだ。多分出来る奴……なんだけど……」
「なんだけど…?」
「……いや、まぁ、……決めたら紹介する。どうなるか分かんねぇし」
「え?……いいよ。俺まだ……」
「こっちだってまだだから紹介だけだ。どうせ動くのも今すぐじゃないし。それより問題はお前の同級生の方だ」
「え?別に問題ないと思うけど…」
「…そうかぁ…?飲みに誘われたとかしたらすぐ言えよ?」
「誘われたって行かないよ」
「……ならいいけど」
宗が読んでいた雑誌を置いた。
瑞希はご飯の支度中。
宗がデリバリーを頼むというのを強固に断った。
だってこれは瑞希の仕事で、瑞希が宗にしてあげられる数少ない事だから。
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