「おはよ…」
月曜日の登校の朝。珍しく早起きだったらしい光流と駅で待ち合わせして電車に一緒に乗った。
「唯?どうしたの?体調悪い?だるそうだけど」
「え?あ、うん…ちょっとね。あ、昨日航さんと出かけてきたんだ。それで光流の家にもちょっとお土産買ってきたから今日帰り寄って?」
「へぇ。叔父貴と?休みなんか取らない人だったのにデートとはね…」
ぷっと光流が笑った。
デートって…そう、だけど…。
「で、金曜日はどうだった?」
「あ!うん。色々…家に行った時詳しく話すね!」
電車の中では話せない内容だ。
「了解」
「光流…全然部活行ってないけどいいの?」
「金曜日は行ったよ?唯が先に帰っちゃったし。唯は気にしなくていいんだってば。別に部活に俺は力入れてないから」
光流は飄々と言い放った。部活の顧問の先生が聞いたら泣きそうだ。
授業を終わって光流と一緒に帰るのが普通の事になって前ほど注目を浴びる事もなくなった。
一緒に航さんのマンションまで帰って来ると唯は昨日買ってきたお土産を出した。
「出かけたの初めてみたいなもので…珍しいものじゃないけど…光流の家ですごくお世話になったし…」
言い訳がましく言葉を羅列しながら光流に渡した。
「出かけたのが初めて…?」
「うん。ほらあんまり人いる所とかはちょっとだったし、小さい頃はいくらか出かけたりしたけど…物事分かるようになってからはね…」
「…そうなんだ。…楽しかった?」
「うん」
光流がリビングの一人掛けのソファに座ってて、そっちでよかったと思ってしまう。長いほうは航さんと…。
「唯?」
「え!?あ、な、何!?」
「…なんか挙動不審が多いな…」
光流がちろりと唯を睨んだ。
「ま、いいけど…お土産はありがとう。唯が初めてのお出かけで初めてのデートなのにウチにまで…ホント可愛いんだから」
「あ、あと初めてのバイト代…」
「うん?なにそれ?」
「金曜日、通帳貰って…ええと…警察から。犯人逮捕…の、かな…」
「ああ!そっか!よかったね!ただ働きじゃなかったんだ?殴られて頬っぺたも紫になってたし…それなりの額貰ったんだろうね?足りなかったら親父に言っとくけど?」
「いい!そんな事ないから!」
「ほんとかなぁ?唯は謙虚だから…。で?金曜日はそれだけ?」
「ううん…」
金曜日にあった事を光流に教えた。他の誰にも勿論言う気はなけれど、将来警察に入ると言ってて、現に光流のお父さんが関わっている事なのでいいよね?と光流に確認してから話した。航さんも光流のお父さんも光流にも言わないようにと注意されたわけでもなかったからいいはず。
「へぇ!唯の他にも!」
「うん。すごくビックリしたんだ」
名前も詳細も一応言わない事にした。それは唯だけの事じゃないから。
どこかでもし江村さんと会ったりしたらどうかは分からないけれど、今は光流は知らないし、江村さんだって知らない所で話されるのは嫌なはず。
ESPカードの事なんかも話して光流は興味津々だ。
「俺もやってみたい!でも叔父貴がそうだったら俺も一緒か」
「どうだろうね?夏休み中にもっとデータ取るみたいなこと言ってたけど…」
「じゃ、親父に聞いてみて俺もついてってみようかな…」
ぷぷぷと光流が楽しそうだ。
「それで初デートはどうだったの?」
光流に話題をふられてかぁっと顔が熱くなってくる。
「た、楽しかったよ?」
「あとは何か買った?」
「うん。両親に」
「………唯は真面目でほんと可愛い事するよね。俺だったらないわ」
「え?そう…?だって僕は迷惑いっぱいかけてるし…」
「唯で迷惑かけてるっていったら俺なんかどうすればいいんだろ。好き放題しまくってるし、朝も一人じゃ起きられないし。唯くんはいつもちゃんと決まった時間に一人で起きるのにって毎朝言われるようになったよ」
「ごめん!」
「ホントの事だから別にいいんだけど」
にっと光流が笑う。
あとは亜矢加さんに会った…、とまた思い出してしまった。
「唯?」
「あ、なんでもない」
不安が顔に出たのか光流が怪訝そうな顔をした。
けれど口にだしたくもないのでそこはスルーする。
…ダメだな…と唯は自分で反省してしまう。気にしないって決めたのにやっぱり棘は刺さったままだった。
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