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追憶の彼方には戻らない 121

 光流がコーヒーショップにでも入りませんか?ともちかけて3人でカフェに入った。
 「光流?どうしたの?」
 ずっと光流の様子が変で唯が聞いてみると光流がうん、と頷きながら答える。
 「いや…なんかつけられてる…かも」

 「え?」
 小さい声で光流が言うと江村さんが眉間に皺を刻んだ。
 「誰が?唯くん?君?」
 「分からない」
 光流は首を横に振った。

 「まぁ、今はとりあえずいいや。ええと唯?」
 紹介、と光流が促した。
 「江村 克己です。大学1年」
 「武川 光流です。唯とは同級生。…ね、唯と知り合いって事は…この間聞いた人かな?」
 そう、と唯は頷いた。

 言って大丈夫なのかな?と江村さんの顔を見たけれど江村さんの表情は変わらずいつものままだ。
 「唯くん俺の事話してないの?」
 「はい。…あの、だって…勝手に言われるの嫌かな…と思って」
 唯が言うと江村さんの表情がふわりと柔らかくなった。それを光流がじっと見ている。

 「唯くんが信じている相手なら別にいいよ」
 江村さんがそんな事を言ってくれたのでほっとした。
 「安心していいです。将来は俺もキャリア警察官になるつもりなので」
 「へぇ…お父さんも叔父さんも警察で君も?」

 「祖父もですよ」
 「警察一家なんだ?」
 「そうなんです。ところで大学ってどこですか?」
 江村さんが答えたのは光流も入ろうとしている難関大学だった。

 「あ!俺も入る予定なので色々教えて下さい。知り合い出来てラッキー!唯も入るよね?」
 「ええ!?僕は…無理じゃない?」
 「ちょっと頑張れば大丈夫だって」
 「唯くんも?…それだと唯くんが1年の時俺は4年だから一年は一緒の学校にいられるな」

 「あ…」
 そっか、と唯はちょっとそれは嬉しいかもと思ってしまう。
 「唯くんと一緒は嬉しいかも…」
 じっと江村さんが唯を見てそんな事言うから唯はどぎまぎしてしまう。江村さんはあんまり感情を出す方ではないだろうにそんな風に言ってもらえたらさらに嬉しくなってしまうじゃないか。

 「……がんばろう…かな」
 「よし!」
 光流もガッツポーズだ。
 「学部は?」
 「法学部」
 「わお!是非!色々聞かせてください!」

 光流は身を乗り出さんばかりだ。
 「…いいけど…光流は大丈夫だろうけど…僕大丈夫かなぁ…」
 唯はかなり不安だ。
 「大丈夫だって!」
 「光流はそうだろうけど…。江村さん、光流ねすっごい頭いいの。勉強しなくても学校のテストほぼ満点」

 「へぇ…」
 「ヤなやつなの」
 くっと江村さんが口を押さえて笑った。
 「武川刑事も完璧そうだよね」
 「叔父貴と一緒にしないでくださいよ!叔父貴は人をナメてますよ?俺はそんな事はない」

 「……変わらないと思うけど」
 ぼそりと唯が言うと全然違う!と光流が主張する。そんな唯と光流を見て江村さんも表情が段々と柔らかいままになってきた。見た目には変わらないように見えるけど目元が柔らかいような気がする。

 「…本当に…友達なんだね」
 江村さんの言葉に光流が首を捻った。
 「どうかなぁ…?俺はそう思ってるけど唯は遠慮したとこあるし…触るのもダメって言うし」
 「だって…それは当然だ」
 何しろ気持ちが垂れ流しになってしまうんだから。

 「…江村さんも俺のことウザくなければ遊んでくださいよ。大学の話はマジで聞きたい」
 「それはいいけど…。大学でも俺は浮いてるから参考になるかどうか…」
 「講義とか授業の事とか聞ければ俺的には全然OKです」
 三歳も上なのに光流は物怖じもしないらしい。

 それに力の事も光流が口に出す事もしない。詳しい事は唯も言っていなくて力を持つ人がいた、位しか教えていないんだけど。
 「……ええと…光流くん?俺の事は…?」
 「え?ああ。全然唯から聞いてませんよ?持ってる、っていうのは聞いてますけど」
 さらりと光流が流す。

 「それより…ここ目立ってますよねぇ」
 「…そうだね」
 「ん?目立ってる?何が?」
 唯がきょとんとすると光流は笑って江村さんは驚いた表情をした。

 「江村さんは自覚あるんだ?唯はね。全然ないんですよ!」
 「……大変そうだ」
 「?」
 「俺はちょっと優越感!女の子じゃないのがちょおっとばかり残念だけど」
 きょろりと周囲を見渡すと、カフェに座っている人達にちらちらと見られているのが分かった。

 なんで?ああ、光流がカッコイイし江村さんは綺麗だからか、と納得する。
 「唯くん…大学入ったら大変かもね」
 「やっぱ大学の方が視線はうるさいですか?」
 「そうだね」
 光流と江村さんが自然に話しているのが唯は嬉しかった。仲良くなれたらな、と思ってしまう。
 
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