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追憶の彼方には戻らない 122

 「夏休みに唯にくっついて行く事あるかもしれないので、よかったら話聞かせて下さいね」
 「いつでも」
 光流が人懐こく言えば江村さんは静かに顎を引いた。

 「…後つけてきてるかも、と言った人はいるのかい?」
 江村さんが視線を下に向け、コーヒーの残りを啜りながら光流に聞いた。
 「いますね。さて…どうしようかな…。目的も分からないけど…唯、叔父貴にちょっと電話してみてくれない?」

 「え?…いいけど…迷惑じゃ…」
 「あのね。唯の身に何かがふりかぶるかもしれないのに迷惑だなんて思うはずないでしょ。いいから」
 光流に急かされて唯は電話を取って航さんにかけると航さんがすぐに電話に出た。
 「もしもし航さん?今電話大丈夫?」

 『家に帰って来てるから平気だ。どうした?今どこにいる?』
 「え?帰って来てるの!?あ、あのねまだ乗り換えの駅にいたんだ。光流と、あと偶然に江村さんにあって今一緒」
 『そうなのか?』
 「うん。あの…光流に変わるね」
 光流が変われと手を出していたので電話を渡した。

 「あ、叔父貴?何?帰ってきてたんだ?いやちょっと気になる事があって…学校からずっとつけられてるみたいなんだよね。俺か唯か分からないけど。…ああ、いるよ。離れてるけどこっちを気にしてる。…年は三十代後半、眼鏡かけてちょっと野暮ったい感じ、身長が175位かなぁ…で、中肉。締まった感じではないな。目つきは悪い。なにかを狙ってるような感じだ。こっち以外にも視線はきょろきょろして落ち着かない。…うん…」
 光流が航さんに細かく報告している。

 「…了解。うん、送ってくつもりだったから。じゃ」
 はい、と光流に携帯を返された。
 「え、と…航さん?」
 『今光流にも言ったけど光流と一緒に帰って来なさい』
 「うん」
 じゃ、あと帰るねと言って電話を切った。

 「江村さん、携帯の番号きいていい?もし別れた後に江村さんの方についていかれてもまずいから」
 光流は周到に可能性を色々考えているらしくてすごいな、と感心してしまう。
 江村さんが頷いて携帯を出し唯とも番号とアドレスを交換した。
 唯の携帯には両親と航さんと光流と光流の家の電話位しか入っていないのが江村さんのも増えた。

 「江村さん…メールとかしてもいい?」
 今の事態の事よりも江村さんの番号ゲットの方が唯には事件だ。
 「勿論。唯くんだったらいつでも」
 江村さんは唯に好意的で唯もにこりと笑みを浮かべて頷いた。

 「江村さんもしてくださいね!いつでも!」
 「…ああ」
 江村さんと顔を合わせて唯も笑顔を向ける。

 「ええと…二人でほんわかはいいんだけど。じゃあ、江村さんも背後には気をつけてください。もし別れたあとにそっちに行くようだったらもう一度合流しますから。こっちについてくるようだったらいいけど」
 「…分かった」
 江村さんは落ち着いているようで動揺したところも見せずに頷いた。

 コーヒーのトレイを返して店を出て江村さんとはまた、と言って別れた。
 「……うん、こっちに来てるな。唯、江村さんに電話して大丈夫って言ってやって?」
 「うん」
 つけられてるなんて非常事態なのに光流がいるからか唯は全然平気だった。

 「もしもし?今の今で電話すみません、唯です。あの…こっちに来てるみたいで」
 『だろうね。気をつけて。光流くんがいれば大丈夫そうだけど』
 「はい。ありがとうございます。江村さんも気をつけてくださいね」
 『わざわざありがとう。じゃ、またね』
 江村さんも声がまたふわりと柔らかくなった。
 
 やっぱり唯は江村さんが好きだな、と思ってしまう。なんていうか居心地がいい。光流とも航さんとも微妙に違う好きだ。
 光流が神経を尖らせながらも表面上はいつも通りを装ってそのまま航さんのマンションのエントランスに入って光流はほっと息を吐き出した。

 「しつこい!」
 「…ずっとついてきてた?」
 「いたよ。さすがにここまで入っては来ないだろうけど。叔父貴、ちゃんと確認したかな…」
 常駐してる事の多い管理人さんに挨拶しながら唯が暗証番号を入れ、光流も一緒にエレベーターに乗って部屋に向かった。
 エレベーターが到着して扉が開くとそこに航さんが立っていた。

 「おかえり」
 「ただいま!」
 学校から帰って来て航さんがいるのは初めてだった。本当は抱きつきたいところだったけど、光流もいるし我慢。
 そのまま部屋に入ると光流はずかずかと遠慮もなしに入っていってリビングの一人用ソファにどかりと座った。

 「唯は着替えておいで」
 「…うん」
 航さんに言われて急いで着替えリビングに戻ると唯が来るのを航さんも光流も待っていてくれたらしく話はまだしていないようだったのに安心して航さんの隣に唯が腰掛けた。
 
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