「叔父貴、確認した?」
「ああ。何年か前に俺が捕まえた奴だな。仮釈放されたとは聞いていたが…」
「じゃあ危ないのは唯か。何で掴まった?」
「強姦未遂」
はぁ、と光流が大きく溜息を吐き出した。
「…まずくね?」
「………」
航さんが難しい顔で口元を覆いながら考え込んでいる。
「俺を恨んでる、のは知ってる。どうにも思い込みの激しい奴だったから…自分は人よりも秀でていて掴まるはずがないとか、お前の所為だとか大分言われたけど…それにしても唯の事まで…ってどういう事だ?まだ出所して何日も経っていないはずだが…。朝は車もつけられてもなかったぞ」
「叔父貴には気づかれるからだろ。でも…」
光流と航さんが唯の顔をじっと見た。
「どうすんだ?叔父貴」
「……」
航さんの顔が苦しそうに歪んだ。
「俺がずっと唯についていられればいいのだが…」
「あの!航さん…大丈夫。ちゃんと気をつけるし」
「そういう問題じゃない。唯が気をつけても無理に連れ去られる事だってあるんだ。…だが万が一そうなっても唯の携帯にはGPSをつけたからどこにいてもすぐ分かる」
「でも携帯捨てられちゃったら意味ないよ」
光流がすかさず最悪の事を言えば航さんがチッと舌打ちした。
「余計な事言うんじゃねぇ」
「あのねぇ!最悪の事考えるのは当然でしょ。叔父貴だって分かってるのにさ!唯を不安がらせたくないんだろうけど。ホント誰この人?」
はぁと光流が呆れた声を出して溜息を吐く。
「叔父貴が唯に今の状態で張り付いてるのは無理でしょ。前の事件の時とは状況違うし」
「でっち上げてもいいけどな」
「あのね」
はぁとまた光流が呆れたため息だ。
「唯、本当にこんなヤツがいいの?」
「え?なんで?航さんがそんな事本当にするわけないでしょ」
「唯…認識を間違っているよ?この男はそれ位平気でするって!」
「しません。光流が間違ってる。ね?」
隣に座ってる航さんを見てにこりと笑えば航さんがぎゅっと唯を抱きしめてきた。
「ちょ…」
光流がいるのに!
「…唯はホント可愛いな」
「おいこら!オヤジ!高校生に甘えるな!」
「航さんはカッコイイからオヤジじゃないです!」
「30はオヤジだって!」
「光流!」
「唯だって俺の事オヤジくさいとか言ったくせに?」
航さんがくっと笑いながらそう言って唯から離れた。
「へぇ!唯もそんな事言うんだ?」
「結構色々言うぞ」
「へぇ…」
「あれは!航さんが僕をからかってばかりいるから…」
「はいはい。そこもイチャコラの延長なわけね。勝手にしてちょうだい。あ、俺が帰ったあとにしてよね。友達と叔父貴のイチャコラなんて見せられても虚しいから」
やれやれといわんばかりの光流の言い方に恥ずかしくなってくる。
「光流、学校終わったらしばらく唯を連れて帰ってもらえるか?お前の家にだ。あとは俺が終わったら迎えに行く。唯を一人にするのは少しでも避けたい」
「勿論いいよ」
「…兄貴に言って本庁に出向って形にしてもらうかなぁ…」
「いつまで続くかも分からないのに?」
「それなんだよな…」
はぁと航さんが息を吐き出した。
「光流がついててくれるならいくらかは安心出来るが…。あとはヤツがどれ位の事を考えてるか、だな。全然反省なんかしてねぇってのは分かってたけど…」
「何?裁判とか務所では殊勝な態度?」
「ああ」
「反省しないで全部叔父貴の所為にしてたんじゃねぇの?」
「…かもな」
「しかしなんで唯に…」
「そこなんだ。どうして唯の存在が?学校までも…。唯の着てる制服を見ればまぁそれは気づくだろうが…。まだ出所して何日かだけなのに…」
「叔父貴のとこに唯がいるって情報…どっかから…じゃ?」
「どこから?」
「どこって一番知ってるのは叔父貴の署内じゃない?学校なんか誰も知らないよ?俺だけでしょ。あとは唯のテリトリーってないもん」
「警察内から…?」
「警察内の誰かに接触したとか?そこで叔父貴の事聞きだして唯の事が出たとか」
「まさか。そんな事人に話す事はないだろう?まして元犯人に、仮にも警察官が」
「……だよね。そんな事あったら辞職ものだな」
「………」
だが光流の顔も航さんの顔も浮かない様子だ。
その可能性が拭いきれないんだ…。
「とにかく唯を頼む」
「叔父貴に頼まれなくともね。大事な友達だし」
「…僕は迷惑ばっかかけてる気がするけど…」
唯の事なのにいつも二人と光流の家にまで迷惑をかけてる…としゅんとしてしまう。
「そんな事ないって。今回は叔父貴の迷惑を被ってるほうだろ。唯は気にしない。じゃ俺帰るね」
「光流、もしつけられる様だったら戻って来い」
「多分大丈夫」
目的は俺じゃないでしょ?と光流は平然として帰って行った。
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