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追憶の彼方には戻らない 125

 光流から家に着いたとメールが来たのはすぐだった。つけられてもいなかった、とも。
 それを航さんに言って、そうしたらまたメールが来た。
 江村さんからだった。

 大丈夫だった?という簡単なメールだけど、唯の事を案じてくれたのが嬉しい。
 すぐに大丈夫です、ちゃんと帰ってました、ありがとうございますと返事した。
 「ん?光流じゃないのか?」
 「江村さんだった。心配してくれたみたい」

 「…ふぅん」
 航さんはやっぱりちょっと面白くなさそうで、それが可愛い!とか思ってしまう。
 「航さん」
 航さんの腕に抱きついて唯は締まりない顔で笑ってしまう。

 「なんだ?」
 「なんか嬉しい事ばっかりなんだもん!」
 「…よかったな」
 航さんが仄かに笑みを浮かべて唯の頭をぐりっと撫でてくれる。
 こんな事をしてくれるのも、それを唯が何も言わずに受けるのも航さんだけだ。他の人にはされたいとも思わないしして欲しくない。

 「さて、早めに飯の支度して風呂も入るか。そうしたら夜が長くなるしな!」
 「……いつも通りでいいんだけど。僕勉強もしなきゃ」
 「勉強なんか一日位しなくとも平気平気」
 「航さん…軽い。あ!そういえば光流と同じトコ受けるのに頑張る…事になった」
 「お?なんで?」

 「江村さんがそこの大学だったみたいで、一年間だけでも一緒にって……あの、航さん?」
 むぅっと航さんがまた面白くないって顔だ。
 「航さん…可愛い!」
 「は?」
 「えへへ…やきもちって嬉しいね」

 それだけ好きだって思ってくれてるって事だ。
 「……やっぱお前の方が大人だな」
 はぁと航さんが溜息を吐き出してソファから立ち上がった。
 「唯は勉強しておいで。たまには俺が用意するから」
 「え?でも一緒に…」

 「いいよ。いつも唯にしてもらってばかりだからたまにはね。ちゃんと勉強しなさい」
 「…うん」
 航さんはやっぱり大人だ。唯の事を大人だ、なんて言うけれど、ちゃんと航さんは唯の事を考えてくれるから。
 「ホントにいいの?」

 「いいよ。たまにしか出来ないから。唯は気にしないで勉強しておいで。うーん…勉強を自分から進んでするなんてほんといい子だな…。世の中の親は唯を羨ましがるだろうよ」
 くっくっと笑いながら航さんがキッチンの方に行ってじゃ、と唯は自分の部屋に行った。でも航さんがいるのを感じたくてドアは開けたままだ。

 航さんの動く音が聞こえてくると安心する。
 ただべったり一緒にいるだけじゃなくてこんな風に別々の事をしている時間も唯はわりと好きだ。航さんがパソコンに向かってる時とか。同じ空間にいるのにそれでも普通にいられるというのが内側に入れてもらっている様に感じてしまう。 
 「べんきょしよ!」

 航さんの存在に耳を傾けていたけれどだめ、と唯は机に教科書とノートを並べた。
 キリのいいところで勉強を終わらせてキッチンの方に行くと航さんが料理をテーブルに並べていた所だった。
 「わ!すごい!…買い物も行ったの?」
 「帰ってくる途中に寄って来た。今日は帰るの早いし俺がしようと思って」
 豚のソテーに焼き魚にサラダと煮物まである。

 「航さん…すごいな…。なんでこんなに出来るのに一人でしなかったの?」
 「一人じゃする気も起きないからな」
 航さんはなんでも出来るし器用だ。唯も自分では不器用だとは思わないけど料理に慣れているわけではない。それでも最近は色々とレシピ見ながらも分かるようになってきたし、包丁の使い方もましになってきた。

 「唯がいっつも頑張ってくれてるからな。たまには俺も頑張るさ。さ、座って」
 「うん」
 揃ってご飯だ。
 確かに昨日一人だったときはやる気も起きなかった。航さんの言ってる事がよく分かる。

 「おいし」
 「よかった。…唯…すまないな」
 「何が?」
 「色々だ。家の事もだし…それにつけられたりとか…もしもの事があったら…」
 「…航さん助けてくれるでしょ?」
 「当然だ」

 「ならいいよ。平気。…何があっても航さんの傍にいたい…」
 「……離せないからな。本当は俺の傍になんかいないほうがいいんだろうが…」
 「だめ。僕もちゃんと勉強して、役に立って、もしこんな僕でも警察に入っていいなら入るつもり。航さんと同じ所にいたい。だから航さんは謝らないで」

 「…前にも言ったけど唯の事を守る。…っていってもどうしても高校生の今は光流を頼りにしちゃってるところが俺には気に食わないんだが…」
 それでも傍に置いてくれるんだ。だから唯も航さんの負担にならないようにしないといけない。
 
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