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追憶の彼方には戻らない 126

 朝は航さんが学校まで送ってくれて、帰りは光流と一緒に光流の家に行って航さんの帰りを待つ。
 光流のお父さんにもお母さんにも事情を話して勿論、と受け入れてくれた。
 かえって唯に迷惑をかけてると恐縮されてしまった位だ。

 航さんが動きたくとも動けないのが実情だ。
 まだ特に何をされたわけでもなく、後をつけられたのもあれ一回きりらしく、気のせいなのではないかと思う位だ。

 夜ご飯は光流の家でご馳走になってそれから帰る。
 この事は光流の家の人以外には小木さんにしか航さんは言っていないらしい。
 唯の事がどこから漏れたのか分からない今は用心にこしたことはない。

 「唯…不自由はないか?」
 「ううん。全然」
 光流の家からの帰り、車の中で航さんが聞いてきた。

 「僕…結構図太いのかも…。前の時も思ったんだけど、事件の事も光流の家に厄介なってるのもわりと平気なんだよね。迷惑かけちゃって申し訳ないな…とは思うんだけど…。僕自身はわりと大丈夫」
 「……ほんと肝が据わってるよな。でもそれならよかった」

 「航さんこそ…大丈夫…?無理してない?」
 「ちょっとだけな。唯の事があるから気が気じゃないというのもあるから…」
 「…ごめんね」

 自分がいた方が航さんの足かせになっている気がする。でもそれが分かっていても航さんから離れない。だからこその謝罪だった。
 「唯が謝る必要はどこにもないぞ」
 「…ん」
 航さんはそう言ってくれるけど…。

 いつまで続くのだろうか?早く普通の状態に戻って欲しいと、航さんの為にも思ってしまう。
 「しかし、ほんっとに唯は兄貴にも義姉さんにも好かれてるよな…。まぁ可愛いから分かるけど。なにしろ光流が可愛くないからな…」

 「僕がいい子ぶってるからだよ」
 「それだけじゃないだろ。ぶってるだけだけだったらバレるって。一応警察だぞ?嘘吐いてるとか裏ありそうとか普通に気づくよ」
 「…そう?」
 「そ」

 航さんが大きく頷いた。
 「……唯、ちょっと遠回りするぞ」
 航さんがバックミラーを見ながら小さく言った。
 「え…?」

 「まだつけられているかは分からないがずっと同じ車がついてきてる」
 「う、うん」
 そう言って航さんが車線を変更してゆっくりと走り出した。
 スピードをわざと遅くしてるらしい。

 「ナンバー確認したいんだが…ちょっと遠くて見えん」
 「…ついてきてる?」
 「ああ。動くならさっさと動けってイライラしてたがやっと動き出したか」
 航さんがにやりと笑った。獲物を待っている肉食獣みたいだ。

 「後ろにいられたんじゃナンバーは無理だな…」
 携帯をフリーハンズにしていた航さんはすぐに携帯に手をちょっと伸ばした。
 「お疲れ。今走行中だがつけられているらしい」
 航さんの車はゆっくりと一定のスピードを保ちながら走行し、そして車種や通る道を伝えている。

 「なるべく早く頼む」
 そう言って電話を切るけど、航さんの目は電話中もバックミラーから離れていなかった。
 そしてしばらくゆっくり走る。
 「お…応援来たかな…あ、横道入った…気付いたか…?」

 そして少しして電話がかかってきた。フリーハンズなので唯にまで声が聞こえてくる。
 「盗難車!やっぱり気づいて逃げやがったか!…対応が早い…プロだな。つけてきたのもかなり距離も置いてたし。まぁいいや。わかった、じゃ」

 『盗難車につけられるって…武川さん、またなんか危ない事に首突っ込んでるですか?』
 「いや。被害者だっつぅの」
 またって…航さんは危ない事に首を突っ込むの?と唯がちらっと心配そうな目を向けると航さんも唯をちらっと見た。

 「じゃ。消えたから帰るわ」
 『気をつけてください』
 「ああ、サンキュ」
 電話が切れると航さんは車線を変更して本当に家に帰るらしいルートに戻った。

 「唯、心配しなくていいからな。今までは自分から首突っ込んでたのもあったけど、今はそんな無理はしないから。唯にまで危険が向いちゃ本末転倒だから」
 「…ホント?」

 「ああ。約束する。今まで自分なんかどうでもいい感じだったけど…唯を守るのが一番の優先事項になってからは違うぞ?だからちゃんと帰ってくるし、な?」
 「…うん」
 それならよかった、と唯も安心した。

 「ただ、今までのツケかね…唯にまで危険な目に合わせてしまうかと思うと情けないが…」
 「そんな事ないよ?仕事モードの航さんはかっこいいから」
 「なんだ?仕事ん時だけか?」

 「ううん、違うけど…」
 安心したのか唯も軽い言葉が出てくる。つけられてる、と言われて少しは緊張をしていたのかもしれない。
 そして航さんもそんな唯に気づいていたのか、わざと軽く言ってくれたんだ。
 
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