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追憶の彼方には戻らない 130

 気だるい…。 
 やっぱりえっちした日の次の日は少しばかり身体がだる重い気がする。
 今は航さんが学校まで車で送ってくれるからいいけど…。
 車の時は電車の時よりも早めに学校に着くのでまだ生徒の数も少ないし目立たない。

 「じゃあ夜な。もし身体ひどい時は保健室にいってろよ?」
 「…大丈夫」
 車から下りる時にキスしたい気分だけど、まさかそんな事は出来ないので我慢だ。どこで誰が見てるか分からないんだ。

 「いってきます」
 「いってらっしゃい」
 航さんとの何気ない挨拶も好きだ。
 航さんは唯が学校に入るのを見届けてから車を出す。早めに登校してくる生徒が唯の方を見ているのは気づいているけど誰に何を聞かれるわけでもないのでそこは気にしない。

 相変わらず教室では一人でいる事が多いし、前の席の加藤とちょこちょこ話をする位だった。
 光流とか教室が離れているから授業間で会う事もないし、会うのは昼休み位。

 昨日光流の家を出た後につけられたことを光流にも後で言っとこう、と唯は思いながら教室で教科書を広げた。
 身体が重い…。それは勿論当然かもしれないけど…。元々身体は受け入れる事が出来ない身体なんだから。でも…気持ちいいのは知っている。…航さん限定でだけど。
 はぁ、と溜息を吐き出すと登校してきた加藤がどうした?具合悪いのか?と聞いて来た。

 「え?ううん、大丈夫」
 「なんか月曜も具合わるそうだったよな?」
 「そ、そうだっけ?」
 前の日にえっちしたからだ。

 「無理するなよ?」
 「…ありがとう」
 小さく礼を言うけれどいたたまれない。まさかえっちしてダルいとか言えるはずないし。
 それでもどうにか授業は進んでいく。

 身体のだるい日は時間が過ぎるのが異様に長く感じてしまうのは気のせいだろうか。
 三時間目の休み時間終了間際だった。
 「一年4組紺野 唯、至急職員室に来るように」
 学校放送で呼び出しを喰らった。
 え?なんかしたっけ?と不安な面持ちになって一瞬呆けたが、加藤に早く行け、と言われて唯は慌てて職員室に向かった。

 「あの…紺野ですけど…」
 おずおずと職員室をノックして顔を出すと担任と学年主任の先生がこっちだ、と唯を呼んだ。
 「落ち着いて、今病院から電話がかかってきてお母さんが仕事場で倒れたそうだ。…大丈夫か?電話に出られるか?」
 お母さんが…?
 「はい、出ます」

 保留にされていた電話を取ると、相手は女の人の声で仕事場でお母さんが倒れて病院に運び込まれたのですぐに来るようにという電話だった。
 はい、と頷いて病院を聞いてメモを取り電話を切った。
 「紺野、容態は?」
 「いえ、詳しくはまだ…ですけど…」

 唯は考え込んだ。
 「あの…ちょっと電話かけていいですか?…母親の携帯に」
 「はぁ?お母さんは倒れられたんだろう?」
 「いや、あの…ちょっと確認だけ…」
 怪訝そうな顔をする先生の前で携帯を取り出して母親の携帯にかけてみた。

 『唯?どうしたの?何かあった?今学校よね?』
 仕事中だろうに母親はすぐに電話に出た。
 「やっぱり…。あの、お母さん、なんでもない?具合悪いとか…」
 『え?何言ってるの?』
 
 「あ、ごめん。なんでもないけど…今学校だから後でまた電話するね」
 唯の電話を聞いていた先生が顔を顰めた。唯の電話に母親が出たのを怪訝に思っているのは確かだ。
 「母は別に倒れてもないみたいです」
 「紺野…どういう事だ?」

 「………あの…すみません、ちょっとまた電話していいですか?知り合いの警察の人に、ですけど」
 「…ああ」
 担任と学年主任の先生は唯の前の事件の時に頬が紫になった時休んだ事情を警察の協力で、と説明してあると航さんに聞いていたのでそう先生に聞いてみると了承され航さんに電話をかけた。

 『唯!?学校だろう?どうした?』
 すぐに航さんが出てくれてほっとした。
 「今学校にお母さんが倒れたって病院から電話来たんだけど…それでお母さんの携帯に電話したらお母さんは別に倒れてもなくて…」

 『……唯を外に出すためか…』
 「多分…?」
 『唯…冷静だなぁ…』
 くくっと航さんが電話口で笑って褒めてくれて嬉しくなった。
 「うん」

 『カッコいいぞ』
 航さんに褒められてちょっとこそばゆい感じだ。
 ほんの少し動揺した気持ちがそれだけで落ち着いてくる。それから声の相手の事を聞かれ、航さんの質問に答える。
 『先生いるのか?』

 「うん。担任と学年主任の先生が…」
 『ちょっと変わってもらえるか?』
 唯は頷いて担任の先生に電話を差し出した。
 「ちょっと変わって欲しいそうです」
 担任が頷いて唯から電話を受け取った。
 
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