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追憶の彼方には戻らない 132

 迎えに来てくれたのは小木さんも一緒だった。

 職員室で小木さんと航さんは簡単に唯の事情を話してくれたらしく、朝唯を送ってくるのもそのせいだ、と先生に話して納得してもらった。
 いいけど、車に乗ってから光流がずっと笑いっぱなしだ。
 今日は下校の生徒の目もあるし後部座席に光流と並んで座っている。

 「…光流くんどうしたの?ずっと笑ってるけど…」
 小木さんが後ろを振り向きながら不思議そうに聞いて来た。
 「箸が転げてもおかしい年なんだろう」
 「ちが!…だって唯がっ…」

 「光流!黙っててよ!」
 「小木さん!聞いてよ!唯がさ!叔父貴の事可愛いんだって!」
 「…はい?」
 ぎゃははと光流がまた腹を抱えて笑い出す。

 「先輩が…可愛い…?」
 小木さんが恐ろしいものでも見るような目で唯を見てきた。
 「怖い~!すごいよね!どこをどうやったら可愛く見えるんだ!?」
 光流の笑いが止まらない。

 「お前ら…人がいないとこで一体何言ってんだ?」
 航さんが呆れた口調だ。
 「ったく…緊迫感のない」
 「だって~!」
 光流がヒーヒー言いながら笑ってる。

 「あ、叔父貴イイコト教えてあげようか?」
 「光流!?」
 まさかお昼休みに言ってた事言うの!?唯が慌てるとにたぁと光流が笑った。
 「俺ねずっと唯の彼氏扱いだったんだけど、今は叔父貴と半々よ?でも今日一緒に車乗っちゃったしどんな噂になるかなぁ」

 「……ああ?」
 航さんの声が低くなった。
 「唯って学校で仲良く話すの俺位だからさぁ。ほら、家にいたから一緒に登校とかもしてたし。うちにお泊りしてたのも知られてたんだよね」

 あははと光流が笑っていたけど、唯は航さんがどんな表情をしてるのだろうと気になった。気になったけど、航さんは助手席だし見えない。

 「光流くんが彼氏扱いねぇ…でも唯くんちょっと見ない間に…その…大人っぽくなって…綺麗になったね。って…これ、男の子への褒め言葉じゃないか、な…?」
 あははと小木さんが乾いた笑いを出した。
 「やだなぁ、小木さん。正直に色っぽくなったっでいいんじゃない?」

 「……よくない」
 唯がむっと口を結ぶと光流が空気を読み、無理に笑いを治める事にしたらしく、口を手で抑えていた。

 「それより一体どうなってんの?学校まで電話って」
 光流が話題を変える様に口にした。本当の問題はその電話の事や尾行の事なのに…。
 「唯くんが一人にならないからだろうね」

 「早く捕まえてくれない?唯が可哀相でしょ」
 「そうしたいとこだけど…毎日唯くんをつけ回してるでもないし、実害がね…」
 小木さんが苦笑しながら答えている。
 「そんな甘っちょろい事言ってるから警察ってダメなんだよね」

 「…分かってるんだけどねぇ」
 はぁ、と小木さんも光流も溜息を吐き出している。
 「唯、先に光流を届けてからマンションに送ってく」
 航さんが助手席からくるりと振り返って唯を見てそう言った。
 「…うん」

 「先輩のマンションならセキュリティもしっかりしてるし安心ですね。しかし唯くんのお母さんを使ってくるとなると少し心配でもあるけど…」
 小木さんと航さんはきっとこれからの状況なんかも色々考えているだろうから唯は安心できる。
 でもどうなるのか…唯にも誰にも分からない。

 「唯の状況知ってるのって叔父貴と小木さんだけ?あ、うちの親父もか」
 「一応ね」
 「なんかやる事が中途半端だよね…」
 光流が呟く。
 本当に中途半端だと唯でも思う。

 「アイツは小心者で臆病で狡猾だからな」
 航さんの声に苛立ちが交じっているように感じた。
 「仮釈放したばっかりで掴まるわけにもいかずに人を使って俺に復讐でもする気だろうけど…」
 やっぱり航さんは苛立っているみたいだ。

 「航さん、僕大丈夫だよ?」
 きっと唯の事を気にして、だと思う。
 「唯は信じているよ。今日だって冷静で対処したしね」 
 「ですよね!普通御家族が倒れたなんて言われたら動揺してしまうのに。唯くんは冷静に判断できるしいい子だし可愛いし」

 「ホントだよね。叔父貴には勿体無い位の子だよね。なんでこんなオッサンがいいのか…」
 自分の叔父さんをオッサン呼ばわりする光流を唯が隣で睨むと光流が肩を竦めた。
 「でも俺まで送ることないんじゃね?」
 「一応だ。お前を餌に唯を呼び出されても困るからしかたなくだ。軽率な行動はするなよ」

 航さんが光流に釘を刺した。
 「分かってるよ」
 そうか、と唯は納得した。母親も使ってくるんだから仲のいい友達も使われる可能性もあるのか…。
 唯を狙っているかもしれない相手の事を唯は知らないが航さんは色々考えているのだ。
 

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