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熱吐息 piacere~喜び~3

 会社に戻って書類をつくるのにパソコンに向かっていると斉藤がやってきた。
 「なぁ、ちょっと飲みいかないか?」
 「え?」
 瑞希はパソコンに向かっていたけれど頭の中は宗でいっぱいだったので全然斉藤の声が聞こえてなかった。
 「何?お前ら飲み行くの?じゃ俺も行く」
 「え!?」
 清水の声に瑞希と斉藤の声が重なった。
 「あ、じゃ、俺も」
 今度は岩国だ。
 瑞希は行くって言ってないのに。
 「じゃさくさく終わらせようぜ」
 清水と岩国がノリノリだ。
 行きたくないのに。
 早く帰りたいのに。
 …でも、宗、いなかったら?
 いても宗が女の子といた事を話してくれなかったら?
 きっと瑞希には耐えられない。
 泣いて叫んで宗を問い詰めてしまいそうだ。
 でもそれも宗がいれば、の話だ。
 メールも何もないから宗はもう帰ってる?
 分からない。
 宗に連絡するのも怖い。
 

 もう全部が怖くなってきた。
 宗の声を聞くのも怖い。
 家に帰るのも怖い。
 もし宗がいなかったら?
 もし宗がやっぱり女のほうがいいって言ったら?
 瑞希の前から、横からいなくなったら…?
 携帯を握り締めていた。
 「…彼に連絡しないでいいの?」 
 清水が小さく瑞希に聞いてきたのに瑞希はいいですと答えると携帯をポケットにしまった。

 結局宗に連絡しないまま、すでに4人で居酒屋にいた。
 いつもだったら家に着いている時間なのにだ。
 「さ!明日は休みだ!飲むぞ!!」
 岩国が場を仕切るように何を頼む?とオーダーを纏める。
 店員を呼んで岩国がオーダーを頼んでいると瑞希の携帯が震えた。
 そっと画面をみれば宗から電話だった。

 遅いから心配してくれた……?
 だがどうしても昼間の宗の姿が脳裏に浮かんで電話に出る事は出来ない。
 どうしようと思っていたら電話が切れた。
 帰りたい。
 宗。
 きっとなんでもない。
 自分に必死に言い聞かせる。
 「宇多くん?帰った方いいんじゃないの?」
 清水が瑞希の隣から小さく言ってくれる。
 でも…。
 瑞希は小さく首を横に振った。
 でも電話をくれた宗にメールはしておこうと携帯を出した。

 なんて入れればいい?
 飲みに誘われたから?
 誘われても行かないって言ってたのに、これじゃ瑞希は嘘つきだ。
 やっぱりメールも出来ない。
 宗は一回かけてきたきりでかけてこない。
 もう諦めた?
 瑞希が出ないから?
 どうしよう…。
 時間が経てば経つほど恐くなってくる。
 避ければ避けるほどその先が怖い。
 宗、もう一回かけて…。そしたら出るから。
 でもかかってはこない。


 「乾杯!!」
 岩国がまだ飲んでもいないのにテンションが高い。
 「宇多?どうかしたのか?」
 斉藤が瑞希に話しかけてきた。
 「え?何が?」
 「なんか今日外回りから帰ってきてから様子、変だろ?」
 斉藤は瑞希の様子を見ていたらしい。
 「なぁ、お前らって知り合いなの?」
 岩国がぐびっとビールを空けながら聞いてきた。
 「小学校一緒だったんっス」
 斉藤が陽気に答えるのを聞いてそれ以上何を言われるだろうと、瑞希はびくっと身体を竦めた。

 「……言わねぇよ」
 瑞希にだけ聞こえるように斉藤が言った。
 「ぁ……」
 瑞希が思わず顔を上げると斉藤の目が真剣に瑞希を見ていた。
 「ん?」
 清水の携帯が震えた。
 「…知らない番号だな」
 清水がそう呟き、悪いと言いながら席を立って外に出て行く。

 瑞希の携帯は震えない。
 宗にかけてみようか…?
 でもなんて?
 宗が怒ってたら?
 時計を見ればもうこんなに時間が経ってしまっている。
 なんでこんな事になってしまったんだろう?
 「宇多?ほんとにどうした?顔色悪いぞ?また胃か?」
 「…違う」
 どうしよう…。
 こんな時どうすればいいのか?
 恋愛なんかした事ないし相談する人だっていない。

 「誰から電話?」
 戻ってきた清水に岩国が聞いている。
 「いや、ちょっとな…」
 清水は苦笑して瑞希を見た。
 「宇多くん…大変そうだなぁ…」
 「え?」
 何が?瑞希は眉を寄せた。
 
 

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