乗り換えの駅を歩いていたらぽん、と肩を叩かれ、光流と一緒に後ろを振り返った。
「亜矢加さん」
「キミ達仲いいね!いつも一緒なの?」
「まぁ、わりと一緒が多いね」
〝張ってたかいがあった!会えた…〟
唯は亜矢加さんの声を拾ったのでそっと体を引き、光流の陰に隠れるように体をずらした。
「…こんにちは」
一応挨拶はするけれどなるべく唯は会いたい相手ではない。
「…唯くんは人見知りなのかなぁ?この間も航の後ろに隠れるようにしてたよね」
亜矢加さんが苦笑している。
「まぁね。仲良くなるまで大変だっただけど。…亜矢加さんは休みなんだ?」
この間航さんとデートの時に会った時はパリっとスーツ姿だったけど今日はカジュアルでジーンズ姿だった。
それでもスタイルがいいのが丸分かりだ。背もすらっとしてるし胸もツンと上を向いている。
「そう!ね!お姉さんが奢ったげるから付き合いなさい!」
ぐいと亜矢加さんが光流と唯の肩に腕を伸ばして肩を組むとそのままずるずると連れて行かれそうになる。
唯が光流の顔に視線を向けると光流が苦笑しながら頷いていた。
〝この子…航の……?…この間の航の態度が…確かめたってどうしようもないのに…。いえ…まさか…だって男の子だし…年だって随分下なのに。それにしても…この間のこと…全然何ともなさそう…〟
唯が目線が同じ位の亜矢加さんの横顔をじっと見た。
この間の事?全然何ともなさそうって…何の事…?
亜矢加さんの声を聞きたいわけじゃないけど腕を振り払うのも…と唯が逡巡する。
「おねえさん、逃げないから腕離してくんない?」
「いいじゃない!若い子に触れるなんてなかなか出来ないんだから!」
「逆セクハラじゃん」
光流が冗談めかして言うと亜矢加さんが手を離してくれて唯はほっとした。その唯に光流がちらっと視線で大丈夫?と問うて来たので唯は小さく頷いた。
航さんとの事にも亜矢加さんは気づいてるんだ、と唯は顔を俯けた。
それに対しての嫌悪感は向けられていなかったけど、信じたくないと思っている事が伝わってきた。
江村さんと入ったコーヒーショップに連れて行かれて唯と光流はアイスコーヒーを注文した。
「なんか食べてもいいよ?高校生っていったらお腹いくらでも入るでしょ?」
「…いいです」
唯は小さく断り、光流も今日は腹減ってないしいいよ、と断っていた。
「なによ?折角いいよ、って言ってるのに」
遠慮しなくていいのに、と言いながら席に座る。光流が唯の隣に座って亜矢加さんは向かい側でちょっとほっとした。
「唯くんと話してみたかったんだよね!航と住んでるんでしょ?アイツが誰かと住むなんて信じられなかったんだけど」
航さんの事を親しげにアイツ、なんて…唯はコーヒーを啜りながら胸がもやもやしてくる。
「おねえさん?事情を聞きだすのは無理。プライヴェートだからね?」
光流がにっこりと釘を刺してくれる。
「…ほんとイケズな子よね。航のふてぶてしい所にそっくり」
光流はそれを聞いてまたがくりと肩を落としていた。
「唯くんって美少年!肌なんてほら!つるつる!」
綺麗な指先を伸ばして亜矢加さんが唯の頬に触れてきた。
薄い透明なピンクのマニキュアで爪先が光っている。
〝どうして航はこの子にあんな顔を…あんな航知らない。だから…つい…大丈夫…誰に分かるはずもないんだから〟
唯がはっとした目で亜矢加さんを見た。
「なぁに?」
「……いえ」
そしてすぐに視線を落として顔を俯けると亜矢加さんの手は離れた。
「……おねえさん、デートする相手いないの?」
「いないのよぉ!」
あはは、と亜矢加さんが笑っている。
その下できっとまだ航さんの事が好きだ、って思っているんだ。
幸い亜矢加さんの手は触れていなかったからその声を唯は拾うことはなかったのでほっとする。
「早いとこ見つけないとねぇ。婚期逃しちゃうよ?」
「光流くん…それもセクハラじゃないの?」
「仕返しです」
にっこり笑ってる光流がちょっと怖い。
ちらっと光流を見ると光流がつん、と唯の腕を突いた。
〝大丈夫…唯は安心して〟
安心…?
「それいったら航だって…」
「あ、叔父貴はいるよ。ちゃんと相手」
亜矢加さんがばっと唯を見た。
その視線があまりにも強くてびくりと唯は体を震わせた。
たくさんのポチいつもありがとうございますm(__)m
にほんブログ村小説(BL) ブログランキングへにほんブログ村 BL小説