はのんのBL部屋

　「そう…。…そうだろうと思ったけど」
　あはは、と明るい声を出して亜矢加さんは笑ったけど全然明るい声じゃない。
　表にはそう見えるかもしれないけれど、亜矢加さんから仄黒い渦が出ているみたいな雰囲気を感じた。

　嫉妬を向けられている。間違いなく唯の事を航さんの相手と認識したんだ。
　息が詰まりそうだ…。

　「そうなんだよね。ホントまるで別人みたいになっちゃって」
　「へぇ～」
　にこやかな光流と亜矢加さんが怖い。
　しかもその話題が間接的に唯の事なんだからいたたまれない。
　光流は亜矢加さんが気づいてるって分かって言ってるのだろうか…？

　薄ら寒い光流と亜矢加さんの会話で時間を潰しコーヒーを飲み終えるとごちそうさまでした、と店の前で頭を下げて亜矢加さんと別れた。
　「あ～！女ってこえぇ…」
　「………」
　十分光流も負けてなかったと思うけど、と唯はじとりと光流を見た。

　「……唯、もしかして…知ってたの？」
　「ん？…航さんが付き合ってたって…？知ってたよ。航さんからも聞いた」
　「………叔父貴…女見る目ないよねぇ…。俺だったら絶対あんなのと付き合うなんてしない！」
　光流が言い切った。

　「……あんなの、って…美人だし」
　「はぁ？どこが？見た目？見た目も俺は好みじゃないもん」
　「…ふぅん」

　「やっぱり女の子は可愛くて守ってあげたくなるような子がいいよね。ああ…唯は男の子だけどそんなタイプだわ。ん？…っつう事は唯は俺のタイプ？んん……確かに。ただ男って時点でアウトだけどね。あ…だから叔父貴もげろあまになってるのか？今までタイプ違ったのしかいなかったし…」
　ぶつぶつと光流が呟いている。

　「もしかして…好みも叔父貴と一緒か！？」
　「…あのね、光流さ…光流のお母さんもそんなタイプでしょ？」
　「あ……そういやばーちゃんもだわ。…って事は武川家の好みがそれか？」
　光流は納得したように頷いている。
　「…僕はどうか知らないけど」

　「知らないけどなんて何言ってんの？げろあまげろげろのくせに。…ってそこは置いといて。…唯、何か聞いた？この間は聞かないほういいかなと思って聞かなかったけど…今日もずっと考え込んでる」
　「う…ん…」
　「叔父貴の愚痴ならいくらでも聞くよ？」

　「…そういうんじゃないんだ…」
　あの電話の女の人の声は…あの人だったのか…。
　多分ニュアンス的にそうとしか考えられない。何かをしようとしたんじゃなくて…？
　確実な事は分からないけれど…。それにしても気になるのは唯を見る目だった。それに雰囲気。

　「…嫉妬か…叔父貴の事諦めてねぇのかな…。さっぱりすっきりなんて言ってたけどどこがだよ…。唯を見る目が普通じゃなかっただろ。嫉妬に狂った目だ」
　「……光流にもそう見える…？」
　「見える見える。叔父貴に言った方いいぞ？俺が言っとくか？」

　「ううん…いい…言わなくて。言う時は自分で言うよ」　
　「でも…」　
　「大丈夫」
　「ったく！全部叔父貴が悪いんじゃん」
　「航さんが悪いんじゃないってば」
　そのまま電車に乗って光流の家に向かった。

　なんか疲れた…物凄く…。亜矢加さんから向けられた黒い靄が唯にも移った様に心が曇っている気がする。
　張ってた、と言ってたから唯を待っていたのだろう。
　「…唯は何を気にしてる？」
　ずっと黙ってしまっていた唯を気遣うように光流が電車を降りて光流の家に向かう帰り道、人の気配が少なくなってから聞いて来た。

　「叔父貴の事？」
　「違うよ。航さんの事は信じてる」
　「うーん…唯がなんで叔父貴を信じられるかは謎だけど。まぁ…本当に唯に対してだけは別人だからね。そこは俺も信じられる。じゃあどこを唯は気にしてるの？」
　「…言わない」
　唯は首を横に振った。

　「……危険はない？」
　「危険？何が？」
　光流は気づいてるのだろうか…？
　「だってね。二回も会うかな…？叔父貴と別れてからもう二年位過ぎてるけど一回も俺は会った事なかったし。それが唯が叔父貴の所にいるって事あの人が聞いてから二回でしょ？唯の事見ようとしてた…って事じゃねぇの？それに学校にかかってきた電話も女の声だろ？」

　「……警察官でしょ？」
　「その前に女なんだろ」
　光流が唯の顔を表情を読むようにじっと見ていた。
　その光流に不審に思われないように唯は表情を変えなかった。
　
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