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追憶の彼方には戻らない 141

 「ありがとうございました」
 二週間以上もお世話になって唯は航さんと玄関先で頭を深く下げた。 
 「唯くんは気にしないでね。うちは本当に唯くんは大事な親戚の子みたな感じだから」
 唯はもう一度頭を下げた。
 「じゃ明日学校でね!」
 「うん」

 光流と笑みを交わしながら航さんの車に乗り込む体が軽い。
 ずっと重苦しい気持ちだったのが明日からは普通に帰れるんだと思えばほんの少し軽くなった。
 光流と光流のお母さんに見送られ、手を振りながら光流の家を出た。

 少し車を走らせると航さんが手を唯の方に伸ばしてきて、唯は両手で航さんの大きい手を握った。
 言葉はないけれど、航さんは唯の気持ちが塞ぎこんでいるのを知っているんだ。
 唯も黙ったまましっかりと航さんの手を握った。
 いつでも航さんの声は聞こえてこない。それに安心してしまう。
 航さんだけはいつでも唯の特別だった。

 無言のまま航さんが車を走らせマンションに着く。
 玄関を開けて暗い部屋の電気をつけ、ドアが閉まると唯は航さんの背中に抱きついた。
 「唯、後ろからじゃなくて…」
 くすりと航さんに笑われて腕を緩めると航さんが正面から唯をすっぽりと抱きしめてくれ、そして子供を抱っこするように抱き上げるとリビングまで運んでくれる。

 小さい子のようだと思いながらもそれに甘んじてしまう。
 「唯、今週の日曜は休みの予定だからご両親の所に行こうな。ずっとのびのびになっていたから」
 「…うん。それまでに成績表もくるかな…」
 航さんが唯を抱いたままソファに座りエアコンのスイッチを入れる。
 「唯…」
 航さんが唯の顔を見て名前を呼ぶと唯は誘われるように航さんの唇に顔を近づけた。

 キスしたかった。抱きしめて欲しかった。
 航さんの首に緩く腕を巻きつけて唇を重ねた。もう何度も、数え切れない位にキスしてるけど、自分からする時はどうしても恥ずかしい気がしてしまう。
 子供なのにキスしたいとかそれ以上して欲しいとか…そんな事を思ってるのが航さんにばれてそうで恥かしくなってしまう。

 重ねた唇を航さんの舌がぺろりと舐めてきて唯はおずおずと口を小さく開けると隙間から航さんの舌が唯の口腔にするりと忍び込んでくる。
 ちゅくちゅくと舌を吸われて絡まるだけで唯の体がじんと熱を持ってきた。唯も夢中で航さんの舌に応える様に自分の舌を尖らせ交わらせる。
 交わった唾液が航さんの口腔に流れていくのが恥ずかしい。それでも重なった唇を離すのが嫌で唯はぐっと航さんの首に腕をしがみ付けた。

 「んっ…」
 航さんの手が唯の制服のスラックスからシャツを引き抜き唯の肌を撫でてきて声が鼻から甘く漏れた。
 「航さん…」
 「ん?…欲しい…?」
 航さんの声が掠れて色を含んだ声で聞いてきた。それに唯は顔が赤くなっているのが分かっていながらも頷いた。
 「…して」

 小さく唯が囁くと航さんの手は唯の制服のネクタイを外し、シャツのボタンをはずしていく。
 唯もいいのかな…と思いつつ航さんのネクタイに手を伸ばして緩めた。
 ジャケットが着たままで皺になると思いながら航さんのジャケットに手を伸ばすと航さんは一旦唯から手をはなして唯が脱がせるままスーツのジャケットから手を抜いた。

 脱いだジャケットを航さんはぽいとフローリングに投げ捨て再び唯の衣類に手を伸ばし唯の衣類を剥いでいく。
 気温が高くて熱を持っていた部屋がエアコンで段々と冷えて来た。
 反対に唯の体の熱は上昇していく。
 「こう、さん…」
 唯の声が上擦っていた。まるで物欲しそうなその声が恥ずかしいと唯が顔を俯けたら航さんがくすりと笑った。

 「唯…恥かしがらなくていい…。欲しいなら欲しいって言え」
 「…だって…なんか…僕…子供なのに…こんな…」
 「俺が唯をそうしてしまったんだからな。責任はいつでも取る」
 航さんが嬉しそうに口端を緩めながらそんな事を言う。
 「なんでも言っていい。舐めてとか、指でしてとか」
 「…そ、んな…」

 かぁっと唯が顔を熱くしながらも小さく首を横に振った。
 恥かしくてとてもじゃないけどそんな事言えそうにないんだけど…。
 「ほら、どうして欲しい?」
 「…キス…」

 小さく唯が言うと航さんがキスしてくれる。でもそれだけで航さんの手は動いてくれない。
 「んん…」
 もぞりと体を動かすけど航さんは知らんふりだ。
 「…意地悪」
 はぁ、と唇を離して熱い息を漏らしながら抗議すると航さんがくっくっと笑った。
 
 
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