恥かしいな…とお風呂に連れてこられて湯船に浸かりながら唯は小さくなっていた。航さんは唯の後ろで唯の体を抱きしめている。
その航さんがさっきから唯の後ろで項や頭などに何度もキスを繰り返していた。
恥かしがってる唯の事が分かってるらしい。
「…恥かしがるくせに大胆だよな」
「………そんなんじゃ…」
航さんの声が楽しんでるのが分かる位に弾んでいた。
「…それはいいけど…唯は一体何を気にしているんだ?どうも唯が思ってる事が俺には突拍子もない事が多いから分からん」
「…そんな事ないと思うけど…」
「あるよ」
くっくっと航さんが笑ってる。
「ほら、言ってみろ」
航さんは光流から亜矢加さんと会った事を聞いているはずなのに何も聞いて来ない。嬉しいような嬉しくないような…ちょっと複雑だ。
「…言わない」
だって嫌われたくないから。
唯が嫉妬してるなんて航さんを信じてないみたいじゃないか。初めて亜矢加さんと会った時から全然成長してないのが自分でも呆れる。
今はただの嫉妬だけじゃなくて余計に性質が悪くなった気がしてしまう。
「……今日会いに行ったと言っただろう?ヤツを捕まえた時に組んでたのは亜矢加だった。ヤツが俺を恨んでるのは周知の事実で、勿論亜矢加も知っている。その亜矢加がたまたまヤツに会ったらしい。…本当に偶然かどうかまでは知らんが…そしてちらっと唯の事を零したらしい」
航さんの声が冷たく淡々と告げる。
「亜矢加は退職届けが出てるんだ。実家の父親が倒れて実家に戻るらしい」
「…そうなの…?」
「ああ。今月付けで退職だ」
「…そう…」
「唯……すまないな…俺の所為で唯に余計に精神的なダメージを与えてしまってるようなもんだ…」
「謝らないで。そんなの全然どうでもいい。全然平気。航さんがいてくれるだけで僕はいいんだ…」
「うん…。すまないとは思うけど悪いが離してやれない。我儘で悪いヤツに掴まってしまったよな…」
「…そんな事ないもん…。我儘で悪いのは僕の方だ…」
「それはないな」
航さんがはっきりと否定する。
「あるの。すっごい嫌なやつなんだ…僕の中は…」
「ないない」
「だって真っ黒になる時があるんだもん」
「なる時があるだけだろ?俺なんか常に真っ黒だ」
航さんが堂々と言い放った。
「…え?」
「俺の中は常に真っ黒で唯といる時だけが光りが見える。唯が黒いのなんかまだまだだよ」
「………」
まだまだって…。
唯が自分の中を昇華しきれていないのに航さんにかかればまだまだらしい。
思わずぷっと笑ってしまった。
「警察になってるからよかったものの、一歩間違えたら犯罪者の方に走ってもおかしくない自覚はある。それ位世の事なんかどうでもいいんだ」
「ええ…?だって仕事熱心だって…」
「だから。捕まえる側にいないと俺はいつでも闇の方に堕ちてしまいそうだったんだ」
「……今は…?」
「ないな。唯がいるから。でも唯に見捨てられたらどうなることやら、だ」
「……僕が航さんから離れる事はないけど…?」
「俺の為にもそうしてくれ」
航さんが苦笑しながら唯の項にキスする。
「のぼせるからあがるぞ」
航さんが唯の体を掴んで湯船から立ち上がった。
「唯がいないと眠れないし…汚れた大人のくせに唯に頼りきってる」
「……そんな事ないよ」
唯の方がいつでも航さんに依存しているのに…。
「諦めてくれ」
航さんは唯の言い分なんか聞こえていないらしい。でも黒くても一緒にいていいなんて…。
「唯はこんな真っ黒な俺なんか嫌か?」
「…ううん、航さんがいい」
「俺も少々唯が黒くたって唯以外はいらない」
航さんがくすりと笑いながらキスしてタオルで唯の体を拭いていく。
…そっか…。黒くたって嫌いにはならないんだ…。
確かに唯だって航さんの弱い所を聞いても嫌いになるなんてことはない。きっと犯罪者になったって航さんは航さんだ。
ふわりと気持ちが浮上していく。
「犯罪者になったって航さんが好きだよ?ずっと僕には航さんは航さんだから」
「唯にも同じ事を返してやる。唯は唯だ」
「…うん」
すとんと唯の心が落ち着いた。そしてへへ…と笑いながら航さんに抱きつく。
「こら、まだ拭き終わってないからじゃれるな。そんな事するとまたスイッチオンするぞ」
そういうコト言うけど明日は学校があるから航さんはしないのも分かってる。唯の事を考えてくれているのが分かるから。
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