「不思議だな…」
「うん?」
買い物を終えて帰ってきたのは午後三時過ぎだった。こんなに早い時間からあとはずっと航さんと二人で時間を過ごせるんだ。
「両親が嫌いとかそういうんじゃないけど…どうしても構えちゃうから…」
「…かえって血縁の方がぎくしゃくする事もあるだろうからな。唯は特に特殊だったから」
「…うん。ね、コーヒー飲む?」
買ってきたマグカップを眺めて唯が声を弾ませた。
「そうだな」
唯は買ってきたばかりのマグカップを並べていそいそとコーヒーをセットする。
そういえば小木さんに幼な妻とか言われたんだった。それに住み始めた頃にも思ったけど新婚さんみたいって…まさしくそれなんだろうか…?
なんか改めて考えてしまうと照れくさくなってくる。唯的には新婚さんというかおままごとのようにも思えてしまうけど、やってることはやってるのでやっぱり新婚さんみたいなものか…?
「唯?どうした?」
「え?あ、…なんでもないよ!」
変な事を考えてたとかっと顔が赤くなったのが自分でも分かった位に顔が熱くなった。
「コーヒー入るまで…唯おいで」
航さんに呼ばれてソファに座った。
「昨日の事だが…あえて昨日は言わなかったけど」
さすがに昨日は亜矢加さんに言葉に凹んでて航さんもそれを分かってスルーしてただ唯を甘やかしてくれただけだった。
「…平気だよ。久しぶりに聞いたから…。あれが普通の人の反応だからね。でも今は航さんもいるし光流とかもいるし大丈夫」
「……なんで唯は自分から言わせるような事を言った?…それ位の事を亜矢加が考えてたって事だろう?」
「そこは言わないよ。前に航さんがなんでも言ってって言ってくれたのは嬉しかった。でも昨日のは言わない」
「……結構唯は頑固なところもあるからな…。我慢強くて一人で耐えて、…唯がそう言うなら聞かないけど…唯が一人で我慢する事はないんだからな?」
「うん…航さんに頼りきってるよ?…だから昨日も甘えさせてもらったし、今日もだし…。それで僕は大丈夫。変になるのは航さんの事だけだから…。そうじゃない、僕だけに向かってる事なら全然平気。……ね…もし、僕が何か犯罪おかしちゃったらどうする…?」
「唯が?ないだろ」
「だから!もし、だってば」
「どこまでも一緒に逃げてやるよ」
航さんがけろりと簡単にそんな事を言った。
「俺だったらどんな所を聞き込みするかとかよく分かるし、捜査網もかいくぐる自信があるぞ。安心しろ」
「いえ…犯罪犯しませんけどね…」
自信満々で安心しろと言ってくれる航さんに抱きついた。
「僕も航さんがたとえ殺人犯だったとしても一緒にいるね」
「縁起でもねぇ事言うなよ」
くすっと顔を合わせて笑ってしまう。
「まぁ、そんな事にならないように極力気をつけるけど、唯も気をつけろよ?」
「僕?」
「俺が何かしちまうのはきっと唯に何かある時だな。昨日は本当にブチ切れるかと思った」
はぁと航さんが溜息を吐き出した。
「…気をつけます」
「そうしてくれ」
航さんの言葉が嘘じゃない事は昨日の航さんの雰囲気から見て取れた。
「やっぱ…航さん…好きだなぁ…」
「……モノ好きだよな。普通昨日のあんなとこ見たら嫌になるんじゃないかと思うけど…」
「ううん。だって僕の為に航さんが怒ってくれたんだもん。そんなの嬉しいに決まってるよ」
亜矢加さんには向かなかった目がただ唯にだけ向いてくれている。
あれがどんなに嬉しかったか…。もし少しでも亜矢加さんに航さんの目がいってたらきっと信じる事が出来なくなっていたかもしれない。けれど、航さんの目は真っ直ぐ唯を見てくれた。
亜矢加さんには悪いけれど唯の心は震えた。たった一人の人が同じように想ってくれていると。
亜矢加さんには詭弁だったかもしれないし、自慢にしか聞こえなかったかもしれない。でもそれで唯が恨まれても全然悔いはしなかっただろう。
航さんに教えないのも教えたくないからだ。航さんの中で亜矢加さんはすっかり終わっている事になっているから蒸し返したくないだけだ。少しでも航さんに亜矢加さんを気にして欲しくないから。
「僕って…ずるいんだ…」
「うん?唯が?」
「そう」
「いいだろ。それで。ずるくない人なんかいないさ」
「…そう?」
「そ」
航さんが笑ってくれるのが好きだ。
「コーヒー入れてくるね」
新しいお揃いのマグカップが嬉しい。嬉しい事が多いから…それを離したくなくなってしまう。
たとえずるくなっても。
でも航さんがそれでいいと言ってくれるから唯は安心して航さんの傍にいられるんだ。
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