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追憶の彼方には戻らない 152

 「航さん…」
 早めに夜ごはんを済ませ、お風呂も済ませた。
 一緒にキッチンに立ってアレコレ言いながら料理も楽しくて。こんな日常の他愛もない事が幸せだ。
 両親にもプレゼントと持っていけたし、大学の事もちゃんと言えた。
 あとからメールで母親から改めてありがとう、嬉しかった、大事に使うね、と入ったのも嬉しかった。

 まだ両親と上手く話す事は出来なくとも以前に比べればはるかに状況がいい方にいっていた。
 昨日亜矢加さんに言われた言葉も以前だったならば一人部屋で悶々としているだけだった。そうして一人で呑み込んできた。
 それが航さんがいてくれて優しくずっと唯が眠るまで航さんはただ抱きしめて唯の背中をトントンと叩いてくれた。一人じゃないと、ずっとついてるから、と言葉じゃなくて態度で唯を慰めてくれた。

 だからこそ今日は平気だった。
 航さんを信じられるから…。
 唯がどんな事をしても航さんは受け止めてくれる。そう信じられるから。

 最初に航さんがお風呂に入って唯がお風呂から出てくるとそのまま寝室に連れて行かれた。
 部屋はエアコンがついていてすでにひんやりとしている。
 航さんが唯をベッドに座らせた。

 「唯がお風呂に言っている間に亜矢加から電話が来た。もう住んでいたマンションを引き払い田舎に行ったらしい。唯に謝っておいて、だそうだ」
 「……何の事を?」
 「…言った言葉だそうだ。目を覚まさせる事を言ってくれたのに心無い事を言ってごめん、だそうだ」
 「……別にいいのに…」

 あんな言葉を向けられた後に謝られたのは初めてだった。でもあれは唯はわざと言ったんだ。だから謝られる必要はなかったんだけど…。
 「唯が教えてくれないから内容を聞こうとしたけど…唯が言ってないのに驚いていた」
 「教えないよ。僕はずるいから、って言ったでしょ?」
 くすりと唯が笑うと航さんが唯の頬を撫でた。
 「唯…」

 航さんがそっと唯の唇を啄ばむようにキスした。
 「俺の所為なのに何も言わないんだな…」
 「航さんの所為じゃないでしょ?」
 「……過去の俺に会えるならやめとけ、って忠告に行きたい位なんだが…」
 ぷっと唯が笑ってしまう。真面目な顔で何を言うのかと思ったら。

 「冗談じゃなくて…本当に…自分が唯の負担になるような…」
 「航さんの所為じゃないよ。言ったでしょ?航さんは航さんなんだから。今の航さんがあるのは過去の航さんがいたからだもん」
 「…本当に唯の方が大人だ…」
 航さんが苦笑を漏らし唯の体を横たえた。

 「年は食ってる大人で、警察官なのに掴まるような事しちゃってるダメな大人だけど…唯」
 「いいよ。…僕だって航さんにしてほしいもん」
もうキスだけじゃ足りない。航さんの熱を全身で受ける事を覚えたら身体は勝手に期待に震えてしまう。
 与えられたいし与えたい。欲しいし貰ってほしい。

 こんな事子供の自分が思うのもおこがましいけれど、この先もっと大人になっていって色々変わっていくのかもしれないけれど、きっと航さんに対しての想いは変わらないだろう。
 なんといっても航さんは唯にとってのただ一人特別な人だ。
 もし他に気持ちが聞こえない人が出てきたとしても、唯のすべてを受け止めてくれる人は航さんだけだと思う。

 初めて会った時から特別だったんだ。
 だから今幸せだと思えるんだと思う。そして航さんにも特別だと思ってもらいたい。いつも航さんは唯を腕に抱いて抱き枕の様にして眠る。その方がよく眠れるらしい。唯だけが航さんにとってその唯一の存在になれたら…そうしたら航さんの傍にいていいという免罪符にならないだろうか?
 そうなればいいのに…。

 「航さん…」
 航さんがキスを繰り返すその唇に唯も応える。
 慣れてないし、恥かしくて隠れてしまいたくなる時もあるけど、そんな時も航さんは笑って受け止めてくれるだけだ。
 黒い所も受けとめてくれるんだから恥ずかしいとこなんか些細な事だろう。
 航さんの舌が唯の唇を舐め、こじ開けると唯の口腔に入ってこようとして唯はそれを薄く口を開けて迎える。そして拙いだろうと思いながらも航さんの舌に自分から舌を差し出した。

 「上手く…ない…よね…」
 「ううん?キス?…唯がキス上手かったら俺は怒るぞ?いいんだ。それに…唯がキスだけでもいつも感じてるのが分かれば満足だ」
 それを言ったら航さんにだってキスで感じて欲しいな…と唯は航さんの舌をちゅくりと吸った。

 「こら…」
 航さんが苦笑しながら注意するけどそのまま唯の好きにさせてくれる。
 「ホント…困った子だ…」
 そんなこと言いながら航さんの手が唯のパジャマに手をかけてきた。
 
 
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