そして戻って来た熊谷さんがそれ以上って何か分かる事があるか?と聞かれたけど唯くんも克巳も首を振った。
「でも…どうしてそこが気になったか分からない…し…」
唯くんが切羽詰った声を出した。
「うん。分かってるよ。でも目撃情報も何もなかったんだ。嘘の情報ならあったけどね。だからもし見つからなくたって君たちが責任を感じる事はないよ?」
熊谷さんが明るく告げた。
そしてその日はそれで終了になった。有力情報が出たと、山の捜索に大人数を割く事になったらしい。
「ここで尾崎さんと武川さんを待ってて。すぐ来るからあと帰っていいからね。ああ、それと次の日程だけど三日後はどうかな?」
大丈夫です、と唯くんと克巳が答えてじゃあ次回は三日後に、とすぐに決まった。
「あとその外の日の日程も次の時に決めるから遊ぶ約束とかあるなら教えてね」
克巳は別に誰と遊ぶ事もないし予定もないが一応頷いた。
そこで熊谷さんも部屋を出て行った。
「江村さん…さっきの…どうかな…?」
「うん…どうだろうね…」
なんとなく唯くんと克巳の空気が重苦しい。
居場所が分かるとか…そんな事分かるはずない、と思いたいが唯くんと同じ場所を指していた。唯くんもそれが気になるのだろう。
「地図のね、あの山の名前だけが浮かんで見える感じだった…」
「俺は…あそこから目が離せなくなった」
唯くんと顔を合わせた。
やっぱり、という顔をお互いにしていた。
「役に立つ…かなぁ…?僕は役に立ちたいから…協力するって決めたんだけど…」
「……唯くんは偉いね。俺なんて興味からだよ?でも今は唯くんがいるなら一緒に協力してもいいかな…」
「僕も!一人じゃなかったら…頑張れるかも…」
「一人じゃないでしょう?武川刑事がいてくれるんだろう?」
「え?あ、あの…そ、そう…だけど」
顔を仄かに赤くして慌てる唯くんが可愛い。
「でも…江村さんはまた別というか…」
「…うん。分かるよ。仲間、って感じだね。同種族とか、そんな…」
「うん!そう!」
唯くんが頬を紅くしたまま力強く頷いた。
素直な唯くんの表現が羨ましいと思う。自分はそんな風に表情に出す事が中々できないから…。
そこに尾崎と武川刑事が一緒に戻って来た。
「航さん!」
唯くんがすぐに武川刑事の腕にしがみ付いている。
「なんか熊谷さんが詳しく二人に聞いてって言っていなくなったけど?」
「あのね…」
唯くんが説明しているのを尾崎も黙って聞いていた。尾崎がどういう表情をするのだろうか?と思ったがどこも変わらない。
「…それで捜索隊が、って話か…」
武川刑事が頷いていた。
「二人で…って事は信憑性があるのか?」
克巳のほうに武川刑事が視線を向けた。
「どうでしょう…?俺も初めての事なんで…どうにも…」
克巳は首を静かに横に振った。
「…そうか…。まぁ、ここに残っていても仕方ない。唯帰るぞ」
「…うん。じゃ江村さんまた三日後にね。あと、もしかしたら電話かメールするかも」
「いいよ」
克巳が頷くと唯くんが少しだけ笑みを見せた。
行方不明の件が唯くんも引っかかっているのだろう。克巳でさえ思う所はあるのだ。
唯くんは武川刑事、克巳は尾崎と一緒に部屋を出て、それぞれの車に乗った。
「…あれ…?これって、自分の車…?」
警察車両ではなく尾崎の車だった。
「ああ。ずっと休みがなかったから、今日は克巳クンを送って仕事終了だ」
「……クンっていらないよ」
いつもわざとらしいクン付けするのが気になっていたのでそう言うとあっさりと尾崎がそう?と流す。
無言で尾崎と車に乗った。
いつも尾崎は克巳に力の事は聞いて来ない。ただ黙って送迎するだけだった。
「…行方不明って…生きてる可能性…」
「少ないだろうね。もう一週間も経ってる。しかも山…じゃね…」
「………」
人の助けになるならば…だけど…。
ただのもしかして自分と同じように力を持つ仲間がいるのではと思って安易に受けた事がショックだった。本当に自分が事件の事で役に立つとか思ってもいなかった…。軽く考えすぎだったのだろうか…。
「克巳…?どうした…?」
クンを取っていいと言ったけど、尾崎はさっそく呼び捨てにするらしい。
「…別に」
「………見つかるといいが…」
「…見つかった方がいいと思うか?」
口調がきつくなった。
「いいだろう?見つからなかったら何年も放置されるかもしれないんだぞ?」
……そう言われてもやりきれない思いがしてしまう。
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