「何でも思った事でも言ってくれて構いませんよ?」
…一体尾崎はどうしたのか…?今まで何回か会っていたけどこんな事言われたのは初めてだ。
少々気味が悪い。
そう思いながらもきっと克巳の表情には出ていないはずだ。
だが戸惑ってしまう。
「…何でも…と言われても…」
「………少しずつね」
尾崎が買ってきた弁当を開けて食べ始めた。そして克巳の方を見て、食べなさいとサンドウィッチを指差してきて克巳はそろそろと手を伸ばした。
「…そういうの食った事ないとか言いますか?」
「…言わない」
「あ、そう?おぼっちゃまでしょうからないのかとも思った」
食べたくない、なんて言ったけどむきになるのもなるのもおとなげないかと克巳はもそもそと食べた。
「…さっきのですが…。キミが気に病む事はないですよ。本当はこっちでなんとかするべきなんですから」
捜査の事か…?
もしかして尾崎は克巳が気にしていたから気遣ってるのだろうか…?
だからやめたければやめれば、も言ったのか…?自分が克巳を引き込んだ、とも思ってるのだろうか…?
「…ちょっと…初めての事で…戸惑っただけだ」
「場所を特定した事が?」
狭いリビングで尾崎との距離が近いと思う。
「…そうだ。でも…唯くんも…一緒だったから…平気だ」
「あの子の事…克巳は随分と好意的ですよね」
「そりゃ…初めて…自分と同じような……力持ってるし…」
どうにも尾崎の近くにいるのが落ち着かない。
「あの子と知り合えただけでもよかったと思ってる。…だからアンタは…気にしなくてもいい…」
尾崎が克巳を引き込んだ事を気にしてるらしいので克巳はそう告げた。そこに勿論嘘もないし、本当にそう思っている。
「…そう?ならいいですけど」
尾崎が頷きながら割り箸を動かしていた。
「しかし変な関係といえば変だ。克巳がお母さんの方に引き取られていれば義理の兄弟ですからね」
「…それでも他人は他人だろう…?」
「そうですけどね」
尾崎が肩を竦めた。
今日は尾崎が胡散臭くない感じだ。どうしたのだろう?と克巳が窺う様に視線を向けたら尾崎と目が合った。どきりとしてすぐに目を逸らせてしまう。
「なんです?」
「いや、…今日は胡散臭くないな…と思って」
「はい?胡散臭い…?………そんな風に思ってたんだ?」
くっと尾崎が笑い出した。
さっき克巳が切れかかっても尾崎は悠然としてたのでこれ位言っても平気なんじゃないかと思って思い切って思ってた事を言ってみたら案の定尾崎は笑い飛ばしただけだった。
そこにほっとした。
「確かに胡散臭い感じでしょうね。でも一応真面目に警察してるのに…」
胡散臭いの表現が気に入ったのか尾崎はくっくっと肩を揺らして笑っている。
「…聞いていい…か?なんで警察に?それに刑事に…って」
「ああ。小さい頃にね。引ったくりを追いかけた事があるんです。公園で友達と遊んでて…小学3年かな。自転車に乗ったおばちゃんが自転車倒されて誰か捕まえて、って騒いでて友達と追いかけた。そこに丁度刑事してた警察官の人が通りかかってあっという間に犯人を倒して現行犯逮捕でした。それ見てかっこいいな、と。そこから憧れて晴れて警察官になりました」
「………本当に?」
嘘くさいようなそうでもないような…、と克巳は疑いの目を向けた。
「本当ですけど?」
「……随分と可愛い理由なんだ」
思わず克巳はくすりと笑ってしまった。尾崎の雰囲気からまさかそんな理由で警察官になったなんて思ってもみなかった。
「…わりと思い込んだら一途な方なので。今まで警察官になるのにブレた事もなかったですしね」
「一途…」
それも似合わない、と克巳はくっと口を押さえてしまった。結婚詐欺師とかの方が似合いそうなのに…。
「………キミがどう思っていたか分かりました」
尾崎が小さく嘆息して言葉を漏らし、克巳をちろりと睨んだ。
「誠実なつもりなんですけどね」
「…誠実…」
そうしてこうも似合わない事ばかり口にするのか。克巳が顔を俯けつい口端を緩めてしまうとまた尾崎が溜息を吐き出した。
思いのほか尾崎といるのは息苦しくはなかった。
そしてはっとして笑ったのなんかいつぶりだろう…?と克巳はふと思った。
どこか不安定に感じていた心が尾崎のおかげで気が紛れていた。
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