克巳の力の事を知っていて父親の事も知っていてそれに対して尾崎が自然体だったのがよかったのか…?
見た目はエリート然としてるのにどこか胡散臭いように感じた尾崎だったのに今は同じ空間にいるのが苦痛ではない、と思った。
「……聞かないんだな」
克巳が尾崎を見て呟いた。
「何を?力の事?」
「そう」
「……聞いて欲しいなら聞きますけど…不思議ではあるからね。疑ってもないですけど。…でも聞かれたくないでしょう?」
「聞かれたくない…?どうだろう…?面と向かって聞かれた事は少ないから…」
「ああ…聞かれたくないとはちょっと違うか…」
尾崎が一人納得したような声を出した。
すでに尾崎も弁当を食べ終わり片付けた後で何をするでもなくただ流れているテレビをぼうっと見ていただけだ。そしてぽつぽつと会話するだけ。
「親父さんはなんか言うんですか?」
「…何も。今まで一度だって聞かれた事もない」
母親は顕著に克巳の事を忌み嫌うようにしていたが…。
その母親の言動を尾崎は知っているから聞かないのだろうか…?そんな気がした。
「そもそも家にいても父とはほとんど顔も合わせないし」
尾崎が克巳の言葉を聞いて顔を顰めた。
「…夏休み中ですけど、誰かと遊んだりするんですか?」
「しない。遊ぶような友人もいない」
「…今までもずっと?」
「ずっと。母親の反応知っているんだろう?あれが普通だろ。黙ってれば誰も分からないだろうけど…。それでもずっと地元にいるから噂は絶えず付き纏ってる。小さい頃は自分が普通じゃないって分かってなかったから…」
尾崎の口調は丁寧でどちらかと言えば克巳のほうがぞんざいな口調だ。それでも尾崎は何とも思わないのか態度は克巳を咎めるでもなくどこか楽しんでいるようにも見えた。
「…アンタって…年いくつ?」
「俺?27です」
落ち着いて見えるけど思った通り位の年齢だった。
髪もびしっとセットしてもう少し上に見えなくもないけど、案外髪を下ろしてTシャツジーパンなんか着たらもっと若く見えるのかもしれない。
「今日は随分と質問してきますね」
くすりと尾崎が笑みを浮べたのにまた克巳はどきりとした。
「…それは…」
今日は尾崎が気安いから…だ。
「それに今日はずいぶんと可愛らしい」
「…………は?」
なんか聞きなれない言葉を聞いた。
「初めて会った時から綺麗な子だなとは思ってましたけど。ああ、お母さんに似てますね、顔は。ただ表情が乏しくてつまらない子だと思ってましたけど、そうじゃなかったらしい」
…そうじゃなかった…?
いつもそうしてきたつもりだったけど。
意識的に自分がしてきた事だからそれを尾崎に言われても平気だが、そうじゃなかったというのが解せない。
「俺も聞いてもいいのかな?さっき友人もいないと言ってましたけど、付き合った相手もいない?」
「いるわけないだろう」
「ふぅん」
尾崎がじっと克巳を見ていてその視線に落ち着かなくなった。克巳はふいと尾崎から視線を外す。
「唯くんは触れると人の心の声が聞こえるそうですけど、克巳はない?」
「ない」
尾崎を見ていられなくてフローリングに置かれていた自分の手を見ているとふいに尾崎の手が視界に入ってきた。
「!」
そしてそっと克巳の手の上に重なった。
「……聞こえない?」
「聞こえないと言ってる」
心臓がうるさい位にどくどくと鳴っていた。
「そうなんだ…」
尾崎がすいと手を引き、重なった手が離れてほっと克巳は息を吐き出す。
一体尾崎は何がしたいのだろうか?
今の事に動揺した事を悟られたくない、と克巳は顔を俯けた。
大体にして人に触れられる事などないのだから、だから動揺するんだ。
そう自分に言い聞かせる。
「…アンバランスだな…」
尾崎が呟いた。
「?」
何が?と克巳は顔を上げた。
「キミが」
「…俺?」
「そう」
尾崎が何を言いたいのか分からない。
だが尾崎はそれ以上口にする事なくテレビに視線を向け、克巳も自然にテレビを見た。
ただその内容は何一つ頭に入ってこない。考えていたのは尾崎の事と今日あった事だった。
頭がぼうっとしている。誰とも話す事が極端の少ないので今日は話しすぎているかもしれないから疲れたのだろうか…?
テレビの音が子守唄のように聞こえてきてしまう。
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