「え…?」
はっと目を覚ましたとき見知らぬ天井が目に入った。
どうしたんだっけ?ここはどこだ?と克巳の頭の中がぐるぐるした。
「ぁ…」
尾崎に連れられて尾崎の部屋に来たんだ、と思い出し、そしてゆっくりと起き上がるとベッドに寝せられていたらしい。
…尾崎のベッドか?
ゆっくりと足を床につけてまたぼうっとする。
どうにも寝起きは頭の働きが悪いんだ。
…今何時なのだろう?と薄暗くなっている部屋に夕方か?と見当をつけた。
隣のリビングからはテレビの音も聞こえて来ない。代わりにパソコンのキーボードの音がカチャカチャと聞こえた。
そろりと起き上がってドアを開けると尾崎が克巳に視線を向けた。
「おはよう」
くっと笑われたのが恥ずかしい。
どうやら尾崎の前で寝こけて尾崎がわざわざベ自分のベッドに運んでくれたのだろう。
「……すみません」
小さく克巳が謝ると別にいいよ、と尾崎が表情を和らげた。その顔に克巳は見入ってしまった。そんな優しそうな顔もできるのかと意外だった。
「コーヒーでも飲む?」
克巳は小さく頷いた。
「座ってて。じゃあとコーヒー飲んだら送っていってやるよ」
「…電車でも別に」
「それはダメだね。言っただろう?送るまでが俺の仕事」
尾崎は克巳の肩をポンと叩いてキッチンの方に向かった。
他人の前で寝てしまうなんて…。
目で尾崎の姿を追った。
どうして安心でもしたかのように寝てしまったのだろう?他人の気配がするのに寝るなんて考えられない…。
そもそも誰かとこんなに長い時間一緒にいる事自体がはじめてかもしれない。
やっぱり落ち着かないかも…と思いながら尾崎にコーヒーを貰って飲み干すと送って行きます、と尾崎が立ち上がり克巳も尾崎の部屋を後にした。
結局何しにきたのか分からない。
寝てた時間の方が多かった位だったが尾崎は何も言わなかった。
「次は三日後でしたね?」
「…ああ」
「ではまた迎えに行く時間とか決まったら連絡します」
車の中は業務連絡らしい。
「克巳、ちょっと聞きたいんだけど…唯くんの事気づいた?」
「唯くんの事?」
尾崎が苦笑してた。
「唯くんというか武川さんとの…」
「え、あ、…ああ…分かった…よ。でも言うなよ?」
「勿論言いませんけど。折角刑事になったのに飛ばされたくないし」
「…?」
「だって武川刑事のお兄さんは俺の上司ですよ?将来は警視総監なるでしょうって人ですからね。下手な事は言えない。…それで、アレ見て克巳はどう思いました?」
「どう…?別に…。唯くんは武川刑事の事が大好きだって見て分かるし、彼の方も唯くんを大事にしてるみたいだし…いいんじゃ?それに…唯くんにとってはきっと特別な人だろうから」
「…特別?」
「…知らないのか?武川刑事の声を唯くんは聞こえないんだ」
「ああ…それは聞きましたけど…。そんな事が?」
「そんな事じゃない」
克巳はむっとした。同じ力じゃないにしても唯くんの心は手に取るように分かるつもりだ。たった一人特別な人がいるだけで唯くんには心強いはずだ。
それを普通の人の尾崎が分かるはずもないだろうが…。
自分だって同じ人のはず。だがやはりどうにも疎外感を感じてしまう。
親からでさえも気味悪がられた事もない普通の人には分からない感覚だろう。
ふいと克巳は尾崎を拒絶するように窓の外に視線を向けた。
克巳の拒絶を尾崎が感じ取ったのかどうかは知らないがそれ以上尾崎は言葉を発せず、黙ったまま克巳の家に到着した。
だが、今日は克巳が帰りたくないなんて我儘を言って尾崎の世話になったのだ。
そういえばサンドウィッチや飲み物代も払ってもいなかった、と今更気付いた。
「あ、…今日はすみませんでした。あと飲み物代とか…」
「いらないよ。それ位一応働いてるんだから出せるって。ありがとうございますでいいでしょ。じゃあまた三日後に」
さらりと尾崎が流した。
「……ありがとうございます」
小さく頭を下げて車を降りた。
「もし何か気になる事とかあったらいつでも電話していいから」
「気になる事…?」
「そう。あ、気に病む事、だな…」
「…はぁ…」
曖昧に克巳は頷いた。
今まで尾崎にそんな事を言われた事もなかったのでどうにも勝手が分からない。
家に入って、と尾崎は克巳を促し、大きな立派な和風の門構えの中に克巳が入るとそれを見届けて尾崎は車を出して去っていった。
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