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追憶の彼方から放されたい 12

 お昼のニュースで遺体発見、と報道されていたのを呆然と克巳は見ていた。
 ニュースチェックは警察に顔を出すようになってからはつい習慣になってしまっていた。
 …唯くんに電話をしてみようか…どうせ明日は会える日だけど…。
 やはり、という思いと見つからなければよかったのに、という思いが混ざって複雑だ。

 どうしようかと携帯を持って悩んでいると電話が鳴った。唯くんかと思ったら尾崎だった。
 「もしもし…」
 明日の時間の連絡か、と思いながら電話に出た。
 『…見つかりましたね』
 「……ああ…。見つからなければよかったのに…」
 小さく電話口で呟いた。

 『明日の時間ですが九時半頃にお迎えにあがりますので』
 「…分かった。…あの、熊谷さんか田中さんには会ったか?」
 『いえ。普段に会う事はないんですよ』
 「…そうか」
 どういう反応をするのか気になったのだが…。

 『………大丈夫?』
 何が大丈夫?なのか…?
 「別に…なんともない」
 『……そうですか…。では明日に』
 「ああ」
 電話が切れて克巳は大きく息を吐き出していた。

 …緊張してたのか?今まで尾崎の電話に緊張などしたこともなかったのだが。
 いつも業務連絡のみのような電話だったのに…。大丈夫か、なんて尾崎は何を聞きたかったのか…?
 そこに唯くんからメールが来た。電話してもいいですか?と律儀にメールで確認してくる。
 返事を出す前に自分から唯くんに電話をした。

 『もしもし江村さん…あのニュース見ましたか?』
 「うん…見たよ。…唯くん武川刑事は?仕事?」
 『はい』
 一人だったのだろうか?
 「あんな…見も知らない事を当てるとかできるなんて自分でも知らなかった…。唯くんもでしょ?」

 『…はい。航さんには…気にするな、って言われてた、けど…』 
 「気にしちゃうよね…」
 『……うん』
 唯くんの声が沈んでいる。唯くんはまだ高校一年生で克巳よりもさらに三つも下なんだから克巳の方がしっかりしないといけない。
 「尾崎にね…言われたんだけど、もしあのまま何年も見つからないより見つかった方がいいに決まってるって…」
 『…うん…』

 唯くんだって分かってるんだ。ただ気持ちがやるせないだけだ。…克巳も。
 「気持ちがね…落ち込んじゃうけど…この間俺思ったんだけど、こんな力なんかよりも予知能力があればよかったのにって。そうしたら未然に防げるのかもしれないのにって…。こんな力いらないって普段思ってるのにね…」
 『…僕も…』
 唯くんが小さく笑って、その雰囲気にほっとした。

 「唯くん一人?大丈夫?」
 『大丈夫です。江村さんの声聞いて落ち着きました。同じ気持ちは一人じゃないから…』
 「うん…。俺もそう思う。これからももしかしたら色々あるのかもしれないけれど、いつでも気持ちを半分こにしよう。そうしたらいくらか楽になれるはず」
 『…うん』
 いい子だな、と克巳は表情が緩む。

 『あ!あの!…すみません!電話が…前にも貰ったし…』
 「気にしないで。俺が唯くんの声を聞きたいなと思ったんだ。聞いて安心したよ。ずっと気にしてたから…。ただ武川刑事と一緒にいる所を邪魔しちゃったら悪いなぁと思って遠慮してたんだ」
 『そ、そんな事!…ない、です!』
 今きっと唯くんは真っ赤になっているんだろうな、と思ったら口角が上がってくる。

 「明日、ね?」
 『はい』
 唯くんの声に力が戻って克巳も安心して電話を切った。
 唯くんを心配して思わず大丈夫?と聞いていた。そしてさっき尾崎にも大丈夫と自分が聞かれたのだった。
 …心配してくれたのか…?
 どうにも分からないなと克巳は携帯の履歴を眺めるとそこに並んでいたのは尾崎と唯くんだけだった。

 メールにいたっては唯くんだけだ。確認しなくとも分かっている。
 別に友人なども欲しいと思った事もないので克巳はそれで構わないのだが…。
 でも唯くんには友達がいたな…。武川刑事によく似た彼の甥っこ。一度会ったけど人懐こい子だった。大まかに克巳の事も聞いていたらしいがどこも警戒も不審もなく普通だった。

 確かに唯くんの事を知って普通にしていられるのだからそれも頷ける。
 それにしても武川刑事もだし…懐がでかいというか、度量が大きいというか、自信に満ちた人達なんだろうな、と克巳は結論つけた。

 
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