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追憶の彼方から放されたい 13

 「出かけてきます。お昼はいいです」
 「分かりました。気をつけて行ってらっしゃいませ」
 家政婦さんに言って克巳は玄関を出た。すでに門の前には尾崎が到着していると電話が入っていたので、足早に門を出た。
 「おはようございます」
 「おはよう。どうぞ」

 助手席のドアを開けて尾崎の車に乗り込んだ。
 会うのは尾崎の部屋に行った後で何故かちょっと緊張している。
 きっと自分が尾崎の前で無防備な姿を晒したせいだ。
 克巳は尾崎の顔を見られなくて顔を俯けていた。

 「……寝られなかったとか…ない?」
 「…ない。大丈夫だ」
 「大丈夫……ねぇ…」
 尾崎が呟いたがそれ以上は何も言わず車が警視庁に着いてしまった。
 いつもは指定された部屋に克巳を置いたら克巳が終わるまで尾崎は自分の仕事に行くのに今日は部屋の中までついてきた。

 「…どうした?」
 「いえ。今日はちゃんと見ておこうかと。武川刑事はいつもちゃんと唯くんの傍にいますからね」
 それはそれで別に克巳と尾崎に関係はないと思うのだが…?やっぱり尾崎が何を考えているのか分からない。なんでこの間から急に変わったんだ?
 「おはようございます」
 すぐに唯くんがやってきた。

 「江村さん!」
 唯くんがたたっと小走りで傍に寄ってきたが克巳に触れようとはしない。
 克巳は仄かに表情を緩めて唯くんの肩に触れた。
 「大丈夫だった?」
 「はい」
 唯くんが嬉しそうにはにかんだのがやっぱり可愛いなぁと思う。

 あ、聞こえたかな?と思って唯くんの顔を見たら困った表情をしてた。 …聞こえていたらしい。
 克巳はくすりと思わず笑って唯くんから手を離した。
 「尾崎は今日は江村くんについてるのか?」
 「ええ。その予定です」
 武川刑事と尾崎が話しているのをちらと横目で見た。

 背が高くてガタイもいい二人が並ぶと迫力だ。しかし、どうしても警察官に見えない。二人が並んでいると詐欺師というよりもエリートヤクザっぽいなと思ってしまう。
 唯くんと二人で用意されていた会議用テーブルのパイプ椅子に座るとちょうどそこに熊谷さんと田中さんがやってきた。

 「やぁ!二人ともこの間はご苦労さんだったね。おかげさんで見つかった。…残念な結果だったけど…」
 克巳も顔顰め、唯くんの項垂れた。
 「もっとね…早期発見、犯罪を未然に防ぎたい…。そう思ってるんだよ?…二人とも昨日のニュースは見ただろうけど…。それでも協力してくれるかな…?」
 唯くんが力強い眼差しで頷き、克巳も頷いた。

 「…頼むよ。でも何でもかんでも持ち込む事は絶対にしないからね」
 きっと小さな事件は持ち込まれないのだろう。大きなもので証拠がないとか手がかりがないとか、そういうものを当てにされているのだ。
 公にできないのだからそうだろう。事件の度に克巳や唯くんが動いていたら早々に知られてしまうはず。警視庁の中に入ってくるのでさえ人目を気にしながら入ってくるのに…。

 見られたらあの子供は何だ?と思われるに違いない。
 ただ見られても口外しない事になっているらしいとは聞いた。尾崎が言ってたように噂として出てはいるけれどあくまで噂だ。それをわざわざ上司に確認まではしないらしい。

 「さて、今日の実験だが…」
 熊谷さんがまずは唯くんのESPカード検査をする。
 今日は5回やって8枚当たりが4回と9枚当たりが1回だった。
 …見えてないのにこれはすごいと克巳でも思う。

 「あ、尾崎くんはやったことなかったね!はい、実験!やってみる」
 「俺ですか…?」
 ここに来た人は必ずやらせられるらしい。
 尾崎が戸惑いながらやってみれば10枚中3枚当たり。
 「うーん、普通でつまらないな…」
 熊谷さんが苦笑していた。

 「じゃ保護者組は後ろで眺めてて」
 さっさと邪魔者扱いされ、武川刑事と尾崎は少し離れて後ろに座った。
 「ここからが本題なんだ」
 クマみたいな熊谷さんが真剣な、少し顔を顰めた難しい顔になって克巳と唯くんを見た。

 「君達が発見してくれた子の事だ。犯人がね…見つからない。足取りも…。遺留品を借りてきている。色々試してもらってもいいかな?」
 勿論、と唯くんと顔を合わせてから頷いた。
 被害者はまだ唯くんよりも小さな年だったのに…。

 そんなに世の中の事に関心があったわけでもなかったのに自分が関わった途端に正義感に満ちたような気がする。
 …世の中の事がどうでもいいと思っていた事もあったが、どうやらまだ自分は人だったらしい、と変な所に克巳は安心してしまった。

 
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