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追憶の彼方から放されたい 14

 今日の結果は芳しくなかった。
 そもそも趣旨が間違っているんだと思う。
 克巳は基本はカード読みなど書いてある物が見えるのであって、唯くんは人に触れて考える事が分かるのだ。
 それを犯人がどういう人というのも分からないし何も分からないものを探せないとは思う。

 持ってきた遺留品は携帯電話だった。
 一目見て陰気な気が残っているのが分かった。
 「…唯くんも感じる…?」
 「少しだけ」
 唯くんが小さく頷いた。
 「何かある…?」

 「恐怖…かな…触ってもいいですか?メールとかも見ても…?もしかしたらなにか引っかかるかも…」
 熊谷さんが頷いて克巳は白い手袋をしてから携帯に触れ、中身も見てみたけれど何もひっかからなかった。
 中に残っている写真を見ても何もひっかからない。友達との写真が多い。…制服で撮ったのや私服で遊びに行った時のだろう写真も多かった。
 だがどこにも神経が特別に向く事はなかった。

 アドレス帳を見ても、だ。
 少なくともこの携帯には何も感じなかった。あの地図を見た時のように何かがひっかかるかと思ったけれど…。
 克巳が首を横に振ると熊谷さんがガックリした表情だ。
 「あ、お昼過ぎたね。君達の分は用意してあるから。午後もいい…?疲れてると思うけど…。俺も質問の内容を考えてくるよ」

 「…疲れはないので大丈夫です」
 「じゃ、頼むね。あ、武川さんと尾崎さんの分の昼はないよ。下に二人の分のお昼届いてるはずだから持ってきてあげて」
 「了解です」
 尾崎が頷いた。
 「じゃ、よろしく」
 ずっと記録を書いていた田中さんと熊谷さんが出て行った。

 「武川さん、二人についていてください。昼飯は俺が持ってきますので」
 「そうか?じゃ頼む」
 尾崎がそう言ってどこかに行ってしまう。
 「江村さん…僕達…役立たないね…」
 「そう簡単に事が運んだらそれこそ警察いらなくなっちゃうよ?」
 「…そうかも…」
 くすりと唯くんが笑った。

 「でも俺達でも何か出来ないか考えてみよう。自分の力は自分が分かるからね」
 「…うん」
 「こらこら、お前達は無理しない」
 「でも!航さん!」
 武川刑事が気負っている克巳と唯くんを諭すように注意してきた。立ち上がって唯くんの肩をぽんと叩いてる。
 「休むのも仕事だ」

 「…自分は今まで休みあんまり取らなかったくせに」
 「最近はちゃんと休んでるだろう?」
 唯くんが武川刑事には躊躇なく触れ、腕にぶら下がるようにして甘えている。無条件で甘えられる存在というのが羨ましい、と克巳は微笑ましく唯くんを見ていた。
 尾崎が二人の食事を手に戻ってくると、今度は武川刑事と自分の分の買ってきますとまた出て行く。
 武川刑事よりも尾崎の方が年が下であろうから使いっぱしりらしい。

 「先に食べてなさい」
 尾崎が持ってきてくれたざる蕎麦のセットをすみませんと断ってから唯くんと二人で食べた。途中で尾崎が帰って来て会議用テーブルに四人で座ってもくもくと食を進めた。
 唯くんも終始難しい顔をしていて、それは克巳もだ。

 変わらないのは武川刑事と尾崎。
 コンビニかどこかで尾崎は弁当を買ってきたらしく二人は市販の弁当で、唯くんと克巳の分はどこかの店からの出前らしい。
 警察に正式に所属しているわけではないのでお客さん扱いなんだろうな、と食べながら考える。

 それにしても…どうやったら何かをつかめるのだろう?
 まだ中学生の子を手にかけるヤツとはどういう考えをしているのか…。
 テレビでの事件の報道で色々な事件が毎日のように起きているのは知っていても、こんな風に自分が少しだけでも関わってくるとやりきれない気持ちが大きくなってくる。

 警察官のこの人達も同じように思っているのだろうか?と克巳は飄々としている刑事二人にちらっと視線を向けた。
 尾崎は刑事に配属になってからまだそんなに日数を過ぎたわけではないけれど、それでもやっぱり警察は警察なのだろう。
 この間も克巳が珍しく感情を出してしまった事にも冷静だった。いつも尾崎の温度は変わらない気がする。
 ただ温度は変わらないけれど克巳に対する言動がこの間からちょっと変わったのはどうしてだろう…?

 いつの間にか事件の事ではないく尾崎の事を考えていた。
 「なに?聞きたい事でも?」
 じっと尾崎を見てしまっていたらしく、尾崎が視線を克巳に向けてきて、内心どきりと驚いたが表情は変えずに克巳はただ首を横に振った。
 
 
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