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追憶の彼方から放されたい 16

 結局、やはり人物を特定できない所為なのか、夕方までかかっても何も成果は得られなかった。

 被害者の自宅近辺の拡大地図をつかったり、どういったルートで離れている山まで運ばれたとか、色々考えながらとか写真みたりしながら試して地図と睨めっこしたりしたけれど克巳も唯くんもどこも何も引っかかる所はなかった。
 少々がっくりと意気消沈してしまう。唯くんも同様だ。

 熊谷さんに気にしなくていいよ、と慰められながら夏休み中の残りの日程をプリントアウトされたカレンダーを見ながら決めていく。
 「八月の第一金曜からは唯は予定があるからダメ。明けた月曜も避けてくれ」
 武川刑事が熊谷さんに注文を入れていた。
 「あとは?どこか予定は?」
 「…特にないです」

 唯くんが恥ずかしそうにしながら武川刑事を見ている。…武川刑事と一緒にどこかに出かけるのかもしれないな、と唯くんを見て克己は表情が弛みそうになった。
 「江村くんは?」
 「俺もその週ですね。法事があるんで。あとは別に何もないです」
 「じゃあそこら近辺を抜いて、あとはお盆もかな…武川さん、尾崎さんは?」
 「別に問題ない」
 尾崎も頷いて、熊谷さんが日程を入れていく。

 だいたい週に二日位ずつらしい。
 「じゃあ次は来週の火曜日ね」
 それが散会の合図だ。
 「二人とも、その間にもし気づいた事とかあったらそれぞれ武川さんと尾崎さんに言って?」
 「…はい」

 今度本屋で地図でも購入しようか…。
 別にわざわざ警察にまで来なくとも何か出来るかもしれないし。
 そんな事を思いながら今日結果を出せなかった事にほんの少しだけ不満を感じ尾崎の車に乗った。
 車から武川刑事と一緒に帰る唯くんに手を振って別れる。

 「これから何か用事でもある?」
 尾崎が車を出してすぐに聞いてきた。
 「いえ、別に…」
 「じゃあ晩飯に誘ってもいいかな?もうちょっと話がしたいと思ったんだけど」
 「…話?」

 「そう。力のね。…あ、興味本位じゃなくて。今日の事…随分とキミが気にしているように見えたから何かいい案はないかとね」
 なんで尾崎と…と思ったが、メインは食事じゃなくて話らしいのに克己は頷いた。どうやら今まで克巳の事など何も気にしなかったのに興味を持ったらしい。面白半分の興味ではなく、捜査に役立つとでも思ったのだろうか…?

 「……それなら本屋かどこかに行っても?地図が欲しい」
 「…自分でも試してみようと?」
 「そうです」
 熱心だな…と呟いて尾崎は頷いた。
 「いいよ。…家に連絡は?」
 「…します」 

 父親にという連絡ではなく家政婦さんにだ。家政婦さんの旦那さんは父親の運転手で、二人とも家でずっと働いてもらっている。
 家にかければその家政婦が出て、知り合いと食事するので気にしないでくれ、とだけ言って電話を切った。
 かえって克己がいない方が彼女はほっとするのかもしれないな、と克巳は顔を俯けた。

 どうせ家にいて顔を合わせてもほとんど何かを話すという事もないので、克己にはどう思われていようが関係ない。
 父親だって別に克己が家にいようがいまいが関係ないだろう。素行不良でさえなくば構うはずはない。

 「先に飯にしましょうか?何か食べたいものは?」
 「…別にないけど」
 「…張り合いのない人だね。どこがいいかな…ああ、個室になっている所がいいか…。話を聞かれるとあまりよろしくないだろうし。……そういやキミはお坊ちゃまだったな…値の張るようなとこなんて連れて行かれないけど…」

 「別にそんなとこ行くのは…俺だって常じゃないし。高級なとこなんて法事の時位なんで…」
 …というかそもそも克巳は誰かと出かけるわけでもないのであまり外で食べない。
 「…そう?ならよかった。…イタリアンでもいいかな?」
 「なんでも」

 尾崎がさっと車を空いていた駐車場に入れ、通りを歩いていると本屋があったので食事の前に本屋に入って尾崎と一緒に地図を見た。なるべく拡大して地名が載っている方がいいんじゃないか?と尾崎に言われ、そうかも、と頷く。いいが、その分分厚く、そして値もかなりする。
 「会計はいいよ。経費で落としてやるから」
 「でも!」

 勝手に克己が思った事なのに。
 「その分キミがこの地図を使ってくれればいいんじゃない?」
 そうだろうか…?でももしかしたら無駄かもしれないのに…。
 地図を手にしながら並んでいた尾崎を見上げた。相変わらず胡散臭い笑顔に見えるけど…。

 そして尾崎が会計を済ませるとそのまま地図を手に歩き出し、克己はその後ろをついていった。
 尾崎と話をするためで料理なんてどうでもいい。

 …そう思っていたのに連れて行かれた場所はホテルの上階で、個室に壁が仕切られ、窓からは夜景が見えるレストランだった。
 しかも夜景を見ながら食事を楽しむのがこの店のコンセプトなのか座席は窓際に並んで座るらしい。
 「内緒話をするのにいいだろう?」

 確かに向かい合わせよりは小声で話せるかもしれないが、どう見たってここは普通カップルで来るものじゃないのか?
 いくら外に行かない克巳でさえもそう思うのに、こんな所に克巳を連れて来てどうするつもりだ?
 やっぱり尾崎は何を考えているのか分からない。
 はぁ、と克己は小さく溜息を吐き出した。

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